自分と重なる経験に衝撃 仲間を支える場、立ち上げ<ゆりかご15年>連載 第4部②
![出自を探し、特別養子縁組の当事者団体を立ち上げたみそぎさん=6月、東京](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2022-09/IP220822TAN000070000_04.jpg?itok=5HieLt70)
特別養子縁組の家庭で育ったみそぎさん(東京)は大学生の時に実親を探し、生後すぐに電話ボックスに置き去りにされていた事実を知った。実親にはたどり着けなかったが、「分からないということが分かってほっとした」。その気持ちは20代半ばになった今も変わらない。
出自を想像するしかなかった時は、たびたび悪い想像が脳裏をよぎった。だが「遺棄というのは可能性の中のワーストではなかった」とみそぎさん。「母は産まない選択もできる中で、産む選択をし、幸せになるために手放した。タオルにくるみ、人目につきやすい通り沿いの電話ボックスに置いたのも、生き残ってほしいと思ってのことかもしれない」
みそぎさんは、出自を知りたかった理由を「将来に意識を向けていても、ルーツが分からないと、どこに足を着けているのか、足元の地盤が崩れるのではないかといつも不安だった」と語る。実親が分からないと分かったことで、ようやくその不安から解放された。
「普通の家庭で育った人は、出自なんて意識もしないでしょうね。当たり前に手に入り、自然と大事にしていることだから」
大学を卒業し、地元の九州を離れたのを機に、「みそぎ」という名でSNSやブログで思いを語り始めた。みそぎは「禊」だ。出自を知るまで、自分の存在が生みの親を苦しめたのではないかと、自分を責め続ける日々を過ごした。「生きていくには、何かしらの罪滅ぼしをしなければいけない」とまで思い詰めていた日々を、忘れたくないと思った。
自らのルーツをたどり始めて数年後、初めて特別養子縁組の子どもと出会った。話をすると、自分と重なる経験をしていることが衝撃だった。その後も当事者と出会うたびに「初めて同じ立場の人と会った」「同じ境遇の人と話したかった」と、仲間を求める声の多さに気付いた。
養親との関係がうまくいっている人も「親を悲しませたくない」と遠慮したり、悩みを抱えたりしていた。当事者がつながり、集い、寄り添いあえる場をつくりたい-。2020年、特別養子の当事者団体を立ち上げた。
団体名の「Origin(オリジン)」は「原点」や「出自」を意味する。月に1回、養子と養親それぞれの当事者サロンを開き、子育てに悩む養親の相談に乗ったり、ルーツをたどる仲間を手伝ったりしている。全国で講演し、出自や真実告知、特別養子縁組制度の課題についても当事者の声を発信する。
団体の理念は「出自を愛する」ということだ。「出自を含め人生を前向きに捉え、全部ひっくるめて自分を愛せるようになりたい。愛すべき対象を明確に知ることが、当事者が出自を知る意味の一つ」とうたう。
たった1人で空白の過去に向き合ってきた。孤独で苦しい日々だった。だからこそ「仲間を1人にしたくない」とみそぎさんは言う。「こういう境遇で育ったのも、誰かを支えるためだったのかもしれない」(「ゆりかご15年」取材班)
特別養子縁組 実親との法的関係が戸籍上に残る普通養子縁組に対して、特別養子縁組では実親との関係が法的に絶たれる。養親の実子と同じ扱いになり、縁組の解消は原則として認められない。縁組には実親の同意が必要だが、遺棄などで実親の意思が確認できない場合は同意が不要。家庭裁判所が審査、決定する。
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