【あの時何が 益城町役場編⑫】罹災証明書求め 夜明け前から長い列
「先着順なんて聞いとらん。こっちは仕事ば休んで来とっとぞ!」
益城町の罹災[りさい]証明書の発行会場となったグランメッセ熊本の駐車場では連日、被災者の怒号が響いた。
町が罹災証明書の発行を始めたのは、熊本地震の発生から1カ月以上が過ぎた2016年5月20日。初日から想定を上回る数の住民が押し寄せ、町が急きょ導入した「1日先着700世帯限定」が、新たな混乱の火種となった。
町は県や関西広域連合などの応援職員を得て、1日に発行できる罹災証明書を700世帯程度と試算。地区ごとに交付日を設けて来場者数を分散させ、午前9時~午後4時で対応できると見込んでいた。しかし、実際は不慣れな発行作業に手間取り、対象地区外の住民も訪れたため、初日は夜8時近くまでかかった。このまま応援職員に長時間作業を続けさせるわけにはいかない。4日目に先着700世帯に制限して整理券の配布を始めたが、夜明け前から整理券を求める住民の長い列ができる事態が生じた。
会場は駐車場に設置した野外テント。日中の気温が30度を超える日もあり、長い時間待たされて体調を崩す人もいた。町は地元医師会に依頼し、医師と看護師を会場に常駐させる態勢を取った。税務課長の緒方潔(58)は発行が始まると、グランメッセに足しげく通い、被災者に何度も頭を下げて回った。
そもそも罹災証明書の発行業務は準備段階から混乱を極めた。役場庁舎が被災して使えず、電算システムも一時停止。避難所運営など役場の業務が増大して人手不足に陥るなど悪条件がいくつも重なった。税務課を中心とする11人の特別チームが発足したのは4月25日。申請の受け付けを始めたのは5月1日だった。
しかも、町内の住宅約1万棟のうち98%が被災している。「申請を受けて調査するより、最初から全棟を調査した方が効率的だ」。町は、応援に入った淡路市職員の助言を採用。関西広域連合などの協力を得た全棟調査は6月5日まで続いた。調査数は納屋などを含め約1万8700棟を数えた。
「5月中に罹災証明の発行が終わるよう、国としても支援する」。5月5日、被災地視察のため来熊した防災担当相の河野太郎の発言が、疲弊した職員たちを追い詰めた。「懸命に毎日やっているのに…。5月中なんて無理だ」。緒方は町長の西村博則(61)に直談判する。「これ以上、部下に無理はさせられない」
罹災証明書は、仮設住宅への入居や家屋の解体など被災者が公的支援を受ける際に欠かせない。「一刻も早く発行しなければと必死だったが、発行業務に関するノウハウがなく手探り状態だった。会場もなく、人手不足も痛かった」。緒方は悔しそうに振り返った。(益城町取材班)=敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
SKE48の井上瑠夏さん(菊池市出身)、復興支援で熊本県に寄付
熊本日日新聞 -
熊本城「宇土櫓続櫓」の石垣、復旧に向け解体作業に着手 28年度の積み直し完了目指す
熊本日日新聞 -
東日本大震災の語り部が熊本・益城町へ 23日、災害伝承などテーマに講演 熊日と河北新報の防災ワークショップ
熊本日日新聞 -
被災者に寄り添った支援 能登、熊本地震のボラセン運営者講演 日頃から役に立つ分野想定
熊本日日新聞 -
スペシャルオリンピックス日本・熊本、能登の被災地へ義援金贈呈
熊本日日新聞 -
福島の震災復興と被害伝承を考える 東稜高で復興庁の出前授業
熊本日日新聞 -
スイーツ、カレー、てんぷら串…自慢の逸品ずらり 「くまもと復興応援マルシェ」、グランメッセで17日まで
熊本日日新聞 -
行定監督「熊本から恩返し」 30日開幕、復興映画祭PRで県庁訪問
熊本日日新聞 -
くまもとアートボリス推進賞に東海大キャンパスなど3件
熊本日日新聞 -
復興の象徴「ゾロ」に感謝 大津小3年生が誕生日会開催
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「家計管理」。11月25日(月)に更新予定です。