【あの時何が 益城町役場編⑪】壊滅状態の下水道「町民は生活できん」
「町長、下水処理施設の復旧には1年かかるかもしれません」
本震から一夜明けた2016年4月17日早朝。下水道課長の水上眞一(56)は、災害対策本部に詰める町長の西村博則(61)に恐る恐る切り出した。
4月に下水道課に配属されたばかりの水上の表情は青ざめていた。事態の深刻さを悟った西村は水上にハッパを掛ける。「トイレも、台所も、風呂も1年使えんとなると、町民は生活できん。早期に復旧できなければ、益城は終わるぞ!」
最大震度7の激震に2度見舞われた益城町では、役場庁舎や総合体育館、文化会館、町民グラウンドといった公共施設もほとんどが被害を受けた。町道や橋を含めた公共施設の復旧・復興費用は総額1400億円以上になる見通しだ。町の年間予算の10倍を優に超える。
中でも下水道は壊滅状態だった。町内約9割の世帯が利用する下水処理場の町浄化センター(同町惣領)は、本震で汚水と汚泥の処理施設が被災。汚水処理能力は3分の1に落ち込み、汚泥処理機能は完全に停止した。
下水処理能力の低下は、町民の暮らしに大きな支障をもたらす。「とにかく一日も早く復旧させなければならない」。下水道課職員10人は本震から3日後の4月19日、下水管の被害調査を開始。翌日、支援に入っていた地方共同法人「日本下水道事業団」(東京)と協定を結び、浄化センターの復旧工事にも着手する。
町内業者や延べ85人の応援職員の支援を受けた被害調査では、25日までの7日間で約5千カ所のマンホールを一つ一つ開けて回った。29日、公益社団法人「日本下水道管路管理業協会」(東京)に委託して、無人カメラを使った2次調査をスタート。全165キロメートルの下水管のうち、約22キロメートルで被害が確認された。
一方、町内全域で生じた上水道(約9200戸)と簡易水道(約2200戸)の計約1万1400戸の断水は、4月25日から一部で通水を再開した。ただ、水が使えるようになった途端、「トイレの水が流れない」など住民から苦情が相次ぐ。下水管の破損でマンホール内に汚水がたまってしまうことが原因だった。バキュームカーで汚水をくみ出す応急措置を取り、住民には節水への協力を呼び掛けざるを得なかった。
しかし、この断水と節水が下水処理業務の継続に功を奏したと水上はみる。「浄化センターへの流入量が極端に少なくなり、低下した処理能力でも何とか対応できた。不幸中の幸いだった」
浄化センターの汚水処理能力は約2週間で約8割まで回復する。汚泥処理についても、宮崎県の業者から処理設備を備えた車両を借りて危機を乗り切った。断水が全て解消されるまでには1カ月半を要した。(益城町取材班)=敬称略、肩書は当時
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