【あの時何が 益城町役場編⑧】幹部職員不在の本部 対応後手に
「とにかく課長だけでも、災害対策本部に戻さないといけない」
熊本地震の本震から一夜明けた2016年4月16日午後、益城町長の西村博則(61)は焦りを募らせていた。役場庁舎から町保健福祉センター「はぴねす」に移った災害対策本部には、構成員であるはずの課長級職員の姿がほとんどなかった。
ピーク時の避難者は、町民のほぼ半数の約1万6千人に上った。このため、町職員約250人の大半が避難所運営などに追われ、課長も現場対応を余儀なくされた。「避難所では次々と問題が起こり、なかなかその場を離れられなかった」。前震直後から避難所運営に携わった政策推進課長の中桐智昭(58)は、当時のもどかしさを振り返る。
4月20日午前9時すぎ。関西広域連合から派遣された兵庫県消防課副課長の門田高弘(51)は、宿泊先の天草市から3時間以上掛けて益城町の災害対策本部に着いた。「こんなに少ない人数で災害対応ができるのか」。門田は不安を覚えた。
同連合が主に担ったのは、避難所やボランティア運営、がれき処理の支援だった。1週間滞在した門田は、町の要望を同連合に伝え、対応につなげる調整役の一人。現場に出ている課長や町職員を災害対策本部に戻すため、応援職員の手配などに当たった。ただ、不在の幹部職員に代わって、視察に来た学識者や自治体関係者らの応対にも追われた。地元兵庫県の団体が申し出た仮設風呂の無償提供も、設置場所が決まらず、断らざるを得なかった。
「圧倒的に人手が不足していた。町が決めなければ進まないことがなかなか決められないなど、災害対策本部がうまく機能していなかった」
最高の意思決定機関である災害対策本部会議は、課長らが本部に戻る夕方以降しか開けない日が続いていた。補佐役の副町長を置いていなかった西村はトップダウンで対応を決め、指示を出さざるを得ず、すべての判断が西村に集中。罹災[りさい]証明の受け付けや災害がれきの処理、仮設住宅の建設などが後手に回っていた。
4月25日、熊本県は総務部審議員の門崎博幸(52)を益城町に派遣した。門崎はその後、町の政策審議監に就き、翌年3月まで西村を支えることになる。「人命優先の初期段階はやむを得ないが、復旧・復興に必要な物事を決める態勢を早急に整える必要があった」
西村はこの日、避難所に張り付く課長級職員を招集。避難所対策、被害家屋の調査、役場機能の再建、仮設住宅建設という四つのプロジェクトチームを発足させ、復旧・復興に向けた態勢をようやく整えた。
地震直後から、町には国や県内外の自治体から「プッシュ型」で応援職員が続々と派遣されたが、適切な配置と活用にも時間を要した。門崎は「県も含め、県内のどの自治体も被災時に支援を受け入れる『受援』という視点が欠けていた」と語る。(益城町取材班)=敬称略、肩書は当時
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