【あの時何が 被災地障害者センター編⑦】戸別訪問、面談できたのは6割余り
![要援護者(右)に聞き取り調査をする相談支援専門員=2016年5月11日、益城町](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/syougai07.jpg?itok=HH0C34Fw)
「障害者の個人情報を通常も管理しているところが、受け皿となってくれたのが大きかった」。熊本地震発生から2週間がたった2016年4月29日、在宅障害者の安否を確認するため熊本市の戸別訪問が始まった。民間との協働でネックになる個人情報について、市障がい保健福祉課長(当時)の神永修一(55)は取り扱いを慎重に検討。戸別訪問は、業務委託している市内の障がい者相談支援センター全9カ所が主体となる態勢を確認した。
背景には、11年の東日本大震災以降の変化があった。障害者福祉サービスの相談支援を明確に位置付けたのは、13年施行の障害者総合支援法だ。大震災当時は個人情報を民間と共有できる枠組みがなく、例外的に開示したのは福島県南相馬市などごく一部に過ぎなかった。
熊本市は戸別訪問の対象を8714人の障害者に絞り込んだ。「まずは安否確認。目が届いていない人が最優先だ」と神永。市内の障害者手帳所持者約4万2千人のうち、障害の程度が重く「避難行動要支援者名簿」に記載されているのは延べ約2万2千人。さらに「福祉サービス利用者は各施設が対応している」と考え、サービス受給者と介護保険の対象となる65歳以上は除いた。
「応急危険度判定で赤紙(危険)が貼られた家にいる」「持病の薬が切れ、入手できずにいる」「ずっと風呂に入れないまま」「避難所に入れず車中泊を続けており、みなし仮設や公営住宅への入居情報が伝わっていない」…。訪問が始まると、さまざまな被災実態が見えてきた。
訪問には日本相談支援専門員協会(NSK)に加え、南相馬市などの戸別訪問で実績がある日本障害フォーラム(JDF)も協力。NSK代表理事の菊本圭一(53)は「日頃から感じていた介護の限界が噴出したのか、他の家族は避難し、精神障害のある男性だけが家に取り残されているなど深刻なケースもあった」と振り返る。熊本市の戸別訪問は6月末まで2カ月間に及んだが、面談できたのは6割余りで、3358人とは接触できなかった。同様の戸別訪問を5月に実施した益城町でも、対象約600人のうち面談は5割弱にとどまった。
「うまく支援に結び付いていない」。被災地障害者センターくまもとの発足後、事務局長に就いた熊本学園大教授の東俊裕(65)は危機感を募らせた。「福祉サービスを通常受けていない人の中にも重度の障害者がいるし、(戸別訪問対象外の)軽度でも避難所に行けないまま困っている人がいる」。散乱した家具の片付けなど、通常の福祉サービスでは応じきれない深刻な被災状況の障害者は少なくなかった。
次の手として東が考えたのは「SOSちらし」だった。障害者宅に幅広く配布されると、助けを求める声が次々に届き始めた。=文中敬称略(小多崇)
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