【あの時何が 被災地障害者センター編⑧】「SOSちらし」郵送、ニーズ掘り起こす
「障害者支援のため、センターの存在を知らせることから始めよう」。2016年4月末、被災地障害者センターくまもとは避難所や病院、被災自治体の役所などで「SOSちらし」5千枚の配布を始めた。
「障害のある方へ 支援のお知らせ」と題したA4判で、「SOS」と赤字で大書して相談窓口の電話番号を表記。「お困り事があれば遠慮なく」と呼び掛けると、5月だけで約100件の支援要請があった。当初受け付けた内容は物資提供や夜間介護、入浴介助など。その後は、破損家屋の復旧や散乱した家財の片付け、新たな住まい探しや引っ越しなどの助けを求める声が目立った。
ところが6月に入ると、要請件数が一気に減少してしまう。障害者センター事務局長の東俊裕(65)は、これを好転とは受け止めなかった。「避難所にさえ入れない障害者が多く、ちらしが手元に届いていないからだ。SOSを伝えられない障害者がいる」
熊本市や益城町が5、6月に実施した戸別訪問でも、面談できたケースはそれぞれ6~5割程度。そもそも対象範囲が限定的で、熊本市の場合、障害者手帳の所持者約4万2千人のうち対象は約9千人だけだ。このうち面談できたのは5300人余りに過ぎなかった。
行政側も対応の不十分な現状は認識していた。障害者センターから対象拡大の提案を受け熊本市は7月、障害者手帳の所持者すべてにSOSちらしの郵送を始めた。中には福祉サービスのサポート内容や相談窓口の案内も同封。点字版も取り入れ、市ホームページやフェイスブックで発信するなどして浸透を図った。
SOSちらしの裏には、既に実績のある支援内容もできる限り紹介した。「昼間の障害児の見守り支援」「時間をかけた傾聴などの精神的支援」「壊れたブロック塀の撤去や運搬」「水回り、台所、風呂の配管割れの応急処置」「避難所から避難所への移動支援」…。事務局内に「書き込みすぎ」との意見もあったが、東はこだわった。「日頃から福祉とつながらず、孤立した障害者には何ごとも遠慮して人に頼めない人が多い。これくらい細かく書かないと、そんな人たちには伝わらない」
郵送後、障害者センターの電話が一気に鳴りだした。多い日は1日70件も依頼があり、その半数以上が新規のSOSだった。ある障害者からは「私の人生でこんなに話を聞いてくれ、大切にしてもらえたことはなかった」といった感謝の気持ちが伝えられることもあった。
ただ、反応はそれだけではなかった。「地震が起こったのは4月なのに何で今ごろ、ふざけるんじゃない! 障害があっても誰も助けてくれないし、安否の確認もしてくれなかった」。直接、そんな憤りの電話に応じた東は、心の中で「その通りだな」とつぶやいた。=文中敬称略(小多崇)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
阿蘇神社、熊本地震からの復旧が全て完了 塀と御札所の完成祝う竣工祭
熊本日日新聞 -
熊本城「噴火や断層を生かし築城」 熊本市でシンポジウム
熊本日日新聞 -
災害時の緊急車両通路確保へ 熊本県が年内に計画策定 放置車両移動、がれき撤去
熊本日日新聞 -
宇土市の地域紙「上松山区だより ごしき」100号 団体の活動、催事を紹介 震災きっかけ、住民つなぐ
熊本日日新聞 -
自治会役員、運営に苦慮 業務多忙、高齢化、担い手不足… 熊本市は負担軽減を検討
熊本日日新聞 -
【とぴっく・熊本市】秋津小に熊本地震の被災経験伝えるパネル贈呈
熊本日日新聞 -
熊本城宇土櫓、骨組み解体着手 2032年度復旧完了へ 旧細川刑部邸も現場公開
熊本日日新聞 -
郷土力士に大歓声 西原村で大相撲巡業 熊本地震からの復興記念
熊本日日新聞 -
ルフィら50体が集結 縦5メートル、横18メートルの大迫力 熊本空港にワンピースの巨大イラストお目見え
熊本日日新聞 -
浅野忠信さん、永瀬正敏さんら豪華俳優陣ずらり くまもと復興映画祭開幕 熊本市と菊陽町 12月1日まで
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「成年後見制度」。12月27日(金)に更新予定です。