【あの時何が 被災地障害者センター編⑥】在宅者の安否確認 民間がサポート
「避難できず、支援も届かない人は厳しい状況にいるはず。どうしたらいいだろうか」。2016年4月17日、熊本市障がい者相談支援センター青空(東区)のセンター長、大島真樹(45)は苦慮していた。熊本地震の本震後、つながりのある障害者の無事を確認し、近くの施設利用者分も含めて食料確保のめどを付けた。しかし、周辺には日頃接点がない障害者も多い。支援が及ばない人たちの存在は明らかだった。
熊本市は、福祉サービス利用の助言や情報提供、相談に応じる業務を青空など9カ所に委託。相談支援機能強化員としてコーディネート役を担う大島は、研修会などで相談支援専門員の育成にも関わっている。打開策を求めてNPO法人・日本相談支援専門員協会(NSK)に状況を伝えると、代表理事の菊本圭一(53)=埼玉県=は18日、大島の携帯電話に返答した。「急ぎ熊本に入る準備をしている」
介護保険制度に基づく高齢者支援の状況と比べて、障害者の相談支援体制の構築は日が浅い。NSKが発足した08年ごろ、専門員は全国で数千人程度。13年施行の障害者総合支援法で相談支援が明確に位置付けられ、現在は2万人弱まで拡大している。
菊本は障害者相談支援の先進地といわれる埼玉県川越市でキャリアを積み、東日本大震災では、宮城県石巻市で障害者への全戸訪問をバックアップした経験がある。被災自治体が在宅障害者支援に動くためには、民間のサポートが必要だと痛感していた。熊本入りを決めた時点で地元側の要請はなかったが、大島らを通じて支援の道筋を探っていた。
熊本市では、障害者手帳の所持者だけでも約4万2千人が暮らす。市障がい保健福祉課は前震直後から、入所・通所施設の被災状況や利用者の安否確認に奔走。支援物資の調達や、避難所でのニーズ把握などに追われ、在宅障害者支援にまで手が回っていなかった。当時の課長、神永修一(55)は、そんな時期のNSKからの協力申し出に「団体の実態が分からず、受け入れるべきか迷った」と振り返る。
前進するきっかけは、県身体障害児者施設協議会長、三浦貴子(57)=山鹿市=の「実績もあり、信頼できる人たちだ」との助言だった。内閣府障害者政策委員会で委員長代理を務めるなど三浦は県内外にネットワークがあり、菊本らとも旧知の間柄だった。地震後は官民の支援がニーズとかみ合うように、被災状況や支援の動きを全国協議会や行政などに伝えていた。21日、神永は来熊した菊本らと市役所で打ち合わせ、障害者への戸別訪問の実施を決めた。
4月29日、在宅障害者の安否確認を目的とした戸別訪問が始まった。ただ対象範囲が限られるなど、支援の課題を浮かび上がらせることにもなった。=文中敬称略(小多崇)
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