【あの時何が 被災地障害者センター編②】在宅者の「SOS」に応える態勢に
「ここに避難はできない」。NPO法人ヒューマンネットワーク事務局次長の植田洋平(28)=熊本市中央区=は、2016年4月14日の熊本地震の前震後、自宅近くの小学校で痛感した。体育館への通路は段差のないバリアフリー。しかし避難者でほぼ埋まり、歩く人がやっと通れる隙間しかなかった。車椅子では身の置き場もない。その後の過酷な状況が予想できた。
筋力が低下する先天性ミオパチーを患う植田は、一戸建て住宅で1人暮らし。東日本大震災後、いざという時に備えて災害時要援護者の登録手続きを取っていた。支援者の名前を記した市からの通知が届いたが、「一度も会ったことはなく、顔も知らない人だった」。結果として前震時も16日の本震時も、その支援者から手が差し伸べられることはなかった。自宅近くでの避難生活をあきらめた植田は、熊本学園大(中央区)へ向かった。
学園大が開放した14号館には、他の避難所を巡り巡った後、やっとの思いでたどり着いた障害者も少なくなかった。当時、大学院生として支援に加わった学園大ボランティアセンターの照谷明日香(37)は振り返る。「避難所によっては、障害がある人に『入ってもいいですけどサポートはしません』と言い放ち、事実上閉め出した所もあった」
学園大の運営方針は「どなたでもどうぞ」の発想。避難所を統括した学園大水俣学研究センター長の教授、花田昌宣(65)は東区の自宅が全壊しながらも奔走し、「管理はしないが配慮はする」という姿勢で障害者や高齢者らを支える態勢を整えていった。
一方、大学避難所の運営を花田らに託した社会福祉学部教授、東俊裕(65)は、避難先や支援を受ける手だてがない障害者の存在に思いを巡らせていた。「近隣にある一般の避難所(1次避難所)が障害者を排除すれば、(2次避難所として位置付けられる)福祉避難所にもつながらない」。具体的な対応が急がれた。
「背中を押してくれた」。東がこう振り返るのが、阪神・淡路大震災以降、被災地の障害者を支援し続ける認定NPO法人ゆめ風基金(大阪市)の存在だ。資金面の支援だけでなく、東日本大震災で福島県などに結成された障害者支援グループに参加、組織運営のノウハウもあった。事務局長の八幡隆司(60)は18日夜に熊本入り。東らと在宅障害者に特化した支援態勢と、それを支えるボランティアの仕組みづくりを確認した。
そして4月20日、「被災地障害者センターくまもと」が発足。熊本市東区のくまもと障害者労働センターに集まった約30人が、被災した障害者を掘り起こし、その「SOS」に応えていくという活動方針を共有した。本震から4日。参加した約20団体には、障害者の苦境を訴える声が次々に届いていた。=文中敬称略(小多崇)
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
SKE48の井上瑠夏さん(菊池市出身)、復興支援で熊本県に寄付
熊本日日新聞 -
熊本城「宇土櫓続櫓」の石垣、復旧に向け解体作業に着手 28年度の積み直し完了目指す
熊本日日新聞 -
東日本大震災の語り部が熊本・益城町へ 23日、災害伝承などテーマに講演 熊日と河北新報の防災ワークショップ
熊本日日新聞 -
被災者に寄り添った支援 能登、熊本地震のボラセン運営者講演 日頃から役に立つ分野想定
熊本日日新聞 -
スペシャルオリンピックス日本・熊本、能登の被災地へ義援金贈呈
熊本日日新聞 -
福島の震災復興と被害伝承を考える 東稜高で復興庁の出前授業
熊本日日新聞 -
スイーツ、カレー、てんぷら串…自慢の逸品ずらり 「くまもと復興応援マルシェ」、グランメッセで17日まで
熊本日日新聞 -
行定監督「熊本から恩返し」 30日開幕、復興映画祭PRで県庁訪問
熊本日日新聞 -
くまもとアートボリス推進賞に東海大キャンパスなど3件
熊本日日新聞 -
復興の象徴「ゾロ」に感謝 大津小3年生が誕生日会開催
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「家計管理」。11月25日(月)に更新予定です。