【あの時何が 被災地障害者センター編①】東日本の悲劇 繰り返すな

熊本日日新聞 2018年4月10日 00:00
熊本学園大14号館にある高橋守雄記念ホール。障害者や介護が必要な高齢者を受け入れ「インクルーシブ避難所」の象徴的な存在となった=2016年4月19日、熊本市中央区
熊本学園大14号館にある高橋守雄記念ホール。障害者や介護が必要な高齢者を受け入れ「インクルーシブ避難所」の象徴的な存在となった=2016年4月19日、熊本市中央区

 2016年4月16日-。熊本学園大社会福祉学部教授の東俊裕(65)が、菊池市の自宅から熊本市中央区大江のキャンパスにたどり着いたのは昼すぎだった。未明に起きた熊本地震の本震後、大学は正門近くの14号館を住民に開放した。東が館内に入ると、教室や廊下は「人だらけ」。車椅子を利用する障害者の姿もあり、その多くはNPO法人ヒューマンネットワーク熊本のメンバーだった。

 ポリオ(小児まひ)で足が不自由な東は、自らも車椅子を利用している。かつて代表を務めたヒューマンネットワークは、当事者グループとして県内の障害者運動をけん引。メンバーが学園大で毎年講座を受け持つなど、関係は深く、現代表の日隈辰彦(53)は「学園大なら安心できると考え、多くのメンバーが身を寄せた」と振り返る。

 とはいえ、学園大が開放できたのは2007年完成で比較的新しい14号館のみ。館内も照明が落下する恐れがあるホールは使えなかった。ヒューマンネットワークのメンバーは教室の奥で小さくなっていた。その場を一時でも離れたら身の置き場を失うほどの混雑の中、壁にへばりつくように何時間も耐えていた。

 「理事長を呼んでくれ」と東。別棟の本館は停電でエレベーターが動かず、車椅子では上の階へは行けない。大学を運営する法人理事長、目黒純一(77)が降りてくると、東は「避難所をやるならば次の3点が欠かせない。協力してほしい」と申し出た。それは「水の確保」と「炊き出しの実施」、そして「障害者が避難できる環境づくり」だった。

 公的指定は受けていなかったが、大学は早々に避難所開設の方針を決めていた。1953年、当時の高橋守雄学長が「6・26水害」の避難者を受け入れ、炊き出しをした歴史もある。目黒自身もボランティア活動の意義は十分分かっていた。その原点には学生時代に参加したポリオ患者支援があった。「ぜひともやりましょう」。東の提案を快諾した。

 館内にある「高橋守雄記念」と冠したホールの使用もめどが立ち、16日夕から障害者や介護が必要な高齢者たちの避難先になった。17日夕には炊き出しも開始。障害の有無にかかわらず包括的に対応する「インクルーシブ避難所」の方向性は定まった。

 一方で、東は危機感を募らせていた。本震で被害は広がり、深刻さを増している。避難所に行けない、入れない、あるいは排除された障害者がいるはず。そんな確信があったからだ。「ほっておけば支援の網の目からこぼれ落ちてしまう」

 弁護士でもある東は、民主党政権で内閣府障がい者制度改革推進会議担当室長として障害者権利条約の締結に向けた法整備を担当していた。条約には災害条項もあり、災害支援は重要項目の一つだった。その最中に東日本大震災が発生し、被災地まで何度も足を運んだが、「避難所やボランティアセンターに行っても、障害者の話が聞けない。被災状況すら全く分からなかった」。特に福祉サービスを日頃利用していなかったり、障害者団体に所属していなかったりした在宅障害者は忘れ去られた存在になっていた。

 熊本であの悲劇を繰り返してはいけない-。しかし、その懸念は的中し、被災した多くの障害者が危機的な状況にさらされていた。学園大の避難所運営を同僚らに任せた東は、独自の支援に動きだした。(文中敬称略)

      

 2年前の熊本地震は、被災した障害者らをどう支えるかという課題を浮かび上がらせた。支援に奔走した「被災地障害者センターくまもと」を軸に、障害者をめぐる動きを振り返る。(小多崇)

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