【あの時何が 県災害対策本部編⑨】集積拠点に物資続々 “想定外”に混乱
![全国各地からの救援物資が積み上がったうまかな・よかなスタジアム=2016年4月22日、熊本市東区](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/IP160422TAN000003000_02.jpg?itok=2i1idnnO)
熊本地震の本震発生直後から準備が始まった国による救援物資の「プッシュ型」支援。物資の調達担当として熊本市東区の集積拠点うまかな・よかなスタジアム(現・えがお健康スタジアム)にいた熊本市地域政策課主査、松下修二郎(46)は本震翌日の昨年4月17日以降、昼夜を問わず到着するトラックの列に驚きを隠せずにいた。
送り主が誰なのか、積み荷は何なのか…。松下は「食料ならば、早く避難所に届けなければ」と、運転手への確認を急いだ。
国のマニュアルではプッシュ型で国が担うのは県の集積拠点までの輸送。その先の被災市町村の集積拠点には県が、避難所には市町村が届ける規定だ。
しかし、県が集積拠点に想定していた県産業展示場グランメッセ熊本(益城町)が被災したため、国は急きょ、物流会社の福岡市近郊と佐賀県鳥栖市の倉庫を確保。県の拠点を飛び越え、市町村の集積拠点に直接運び込む“想定外”の態勢に切り替えた。
九州だけでなく、関東からもトラックが被災地を目指した。しかし、当初、送り先や数量は市町村ごとの避難者数を基に国が一方的に決め、市町村側には「いつ、どんな物資がどのくらい届くか」といった情報は伝えられていなかった。これが被災地の混乱に拍車を掛けた。
プッシュ型の政府調達物資が届き始めた17日、うまかな・よかなスタジアムは早くも企業や全国の自治体からの物資で埋まりつつあった。24時間態勢で受け入れたトラックは19日に95台が到着、ピークを迎えた。熊本市職員とボランティアによる人海戦術も及ばず、荷降ろしの待ち時間は6時間を超えた。
トラックは熊本市東部浄化センターやアクアドームなど市が五つの区ごとに設けた集積拠点にも振り向けられ、水や保存食、毛布、トイレットペーパーなどが積み上がった。集積拠点の収容能力や避難所への輸送人員は、間もなく限界に達した。市は21日、プッシュ型を含む全ての救援物資の受け入れを停止せざるを得なかった。
被害の大きかった益城町でも、拠点だったJAかみましきの益城西瓜[すいか]選果場で荷降ろしを待つトラックが列をつくった。「どれが国のプッシュ型なんて見分けがつかない。何の物資を、どのくらい積んでいるのか全く分からなかった」と、物資調達の担当だった町職員の千代田卓(30)。
「スポーツ飲料を500箱送った」「明日10トントラック1台で行きます」。送り主や、中身が分からない支援物資の申し入れもあった。町災害対策本部の電話は毎日、早朝から深夜まで鳴り続いた。
益城町も29日、救援物資の受け入れ中断を発表。管理しきれない物資は避難所にもあふれ、プライバシー確保のスペースが取れないなど環境悪化の要因にもなりつつあった。(並松昭光)
=文中敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめTHEMES
熊本地震-
【能登地震半年 地方紙記者が見た被災地⑫】二つの被災地、つなぐ意義 熊本日日新聞社・堀江利雅記者
熊本日日新聞 -
吉田松花堂(熊本市)所有者に国重文指定書を伝達 「頑張って守る」
熊本日日新聞 -
熊本市役所本庁舎建て替え、市議会の議論が焦点に 議員にくすぶる異論、そもそも論…
熊本日日新聞 -
中央区役所「花畑町別館跡に」 熊本市長、市議会に移転案提示 「多くの市民が利用しやすい」
熊本日日新聞 -
熊本競輪場の正門前、花で明るく レース再開へ市民が植栽
熊本日日新聞 -
競輪選手、新市街「バンク」疾走 熊本競輪場再開前イベント
熊本日日新聞 -
熊本地震からの復興、動画と冊子に 九州農政局の若手職員が作成、能登の被災農家に配布へ
熊本日日新聞 -
五百旗頭さん送る会、歴代首相が参列 蒲島前知事「熊本県民のため力注いだ」
熊本日日新聞 -
当時6歳の姉、東日本大震災で犠牲に… 宮城の女子高生、益城町で13日から写真展 見つかった遺品など27点
熊本日日新聞 -
熊本・南阿蘇鉄道 駅はしごして 全線再開1周年記念イベント 高森町、南阿蘇村の8駅
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
「すべての道は熊本に通じる」とは、蒲島郁夫前知事が熊本県内の道路整備に向けた意気込みを語る際に使ってきたフレーズ。地域高規格道路などの骨格的な道路や鉄道網は、地域・産業の活性化はもちろん大規模災害時の重要性も注目されています。連載企画「移動の足を考える」では、熊本県内の〝足〟の現在の姿を紹介し、未来の形を考えます。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指す記者と一緒に楽しく学んでいきましょう。
※次回は「相続・贈与は難しい」後編。7月19日(金)に更新予定です。