【あの時何が 県災害対策本部編⑨】集積拠点に物資続々 “想定外”に混乱
熊本地震の本震発生直後から準備が始まった国による救援物資の「プッシュ型」支援。物資の調達担当として熊本市東区の集積拠点うまかな・よかなスタジアム(現・えがお健康スタジアム)にいた熊本市地域政策課主査、松下修二郎(46)は本震翌日の昨年4月17日以降、昼夜を問わず到着するトラックの列に驚きを隠せずにいた。
送り主が誰なのか、積み荷は何なのか…。松下は「食料ならば、早く避難所に届けなければ」と、運転手への確認を急いだ。
国のマニュアルではプッシュ型で国が担うのは県の集積拠点までの輸送。その先の被災市町村の集積拠点には県が、避難所には市町村が届ける規定だ。
しかし、県が集積拠点に想定していた県産業展示場グランメッセ熊本(益城町)が被災したため、国は急きょ、物流会社の福岡市近郊と佐賀県鳥栖市の倉庫を確保。県の拠点を飛び越え、市町村の集積拠点に直接運び込む“想定外”の態勢に切り替えた。
九州だけでなく、関東からもトラックが被災地を目指した。しかし、当初、送り先や数量は市町村ごとの避難者数を基に国が一方的に決め、市町村側には「いつ、どんな物資がどのくらい届くか」といった情報は伝えられていなかった。これが被災地の混乱に拍車を掛けた。
プッシュ型の政府調達物資が届き始めた17日、うまかな・よかなスタジアムは早くも企業や全国の自治体からの物資で埋まりつつあった。24時間態勢で受け入れたトラックは19日に95台が到着、ピークを迎えた。熊本市職員とボランティアによる人海戦術も及ばず、荷降ろしの待ち時間は6時間を超えた。
トラックは熊本市東部浄化センターやアクアドームなど市が五つの区ごとに設けた集積拠点にも振り向けられ、水や保存食、毛布、トイレットペーパーなどが積み上がった。集積拠点の収容能力や避難所への輸送人員は、間もなく限界に達した。市は21日、プッシュ型を含む全ての救援物資の受け入れを停止せざるを得なかった。
被害の大きかった益城町でも、拠点だったJAかみましきの益城西瓜[すいか]選果場で荷降ろしを待つトラックが列をつくった。「どれが国のプッシュ型なんて見分けがつかない。何の物資を、どのくらい積んでいるのか全く分からなかった」と、物資調達の担当だった町職員の千代田卓(30)。
「スポーツ飲料を500箱送った」「明日10トントラック1台で行きます」。送り主や、中身が分からない支援物資の申し入れもあった。町災害対策本部の電話は毎日、早朝から深夜まで鳴り続いた。
益城町も29日、救援物資の受け入れ中断を発表。管理しきれない物資は避難所にもあふれ、プライバシー確保のスペースが取れないなど環境悪化の要因にもなりつつあった。(並松昭光)
=文中敬称略、肩書は当時
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