【あの時何が 県災害対策本部編⑧】90万食、政府が初のプッシュ型支援
「約9万人の避難者の3日分の食料、90万食を供給する準備を進めている。国で一方的に計算し決断した」
熊本地震の本震発生から18時間が経過した昨年4月16日午後7時半すぎ、東京・永田町の首相官邸。直前に首相、安倍晋三(62)から指示を受けた官房長官、菅義偉(68)は臨時記者会見に臨み、政府として救援物資の「プッシュ型」支援に乗り出すと発表した。
被災地の要望を踏まえて物資を送る通常の「プル型」に対し、プッシュ型は自治体の要請を待たずに必要と見られる水や食料などを被災地に送り込む。東日本大震災の経験から2012年の改正災害対策基本法に盛り込まれた新たな手法だ。
実際、県内の備蓄物資はほぼ底を突いていた。県は14日の前震を受け、県庁や県内10の地域振興局などに分散して備蓄していた食料4万9千食のうち、6割の約3万食を市町村に提供していた。
15日夜、「物資は足りた」と安堵[あんど]して帰宅した県健康福祉政策課長、野尾晴一朗(53)は、本震の揺れに「避難所にさらに人が押し寄せる」と直感した。
「送れるものは送ってもらおう!」。職場に戻り、課員に九州各県に支援物資を求めるよう指示。事前の協定に基づき大手スーパーなどからの物資調達を県商工観光労働部に依頼した。
国の対応も早かった。官邸と道を挟んで向かい合う内閣府3階の防災担当の部署。16日午前2時ごろ駆け付けた企画官、森本輝(48)の頭には既に「プッシュ型」が浮かんでいた。
「物資が尽きている状況は聞こえ始めていた」と森本。南海トラフ巨大地震に備えて15年3月にプッシュ型の行動計画を策定済みだった。ただ、実行に移したことはない。森本は「救援先を熊本に変えて計画を動かせばいい」と考えた。
計画によると、基本物資は、水、食料、毛布、育児用粉ミルク、大人・乳児用おむつの6品目。食料調達は農林水産省、飲料水は厚生労働省といった役割分担も決まり、物資を供給できる事業者のリストアップもできていた。パンとおにぎり中心の90万食は、業界団体を通じて九州北部と中国地方のメーカーに依頼。不足分は中部地方や関東地方からも調達した。
16日午前4時前、県庁では、知事、蒲島郁夫(70)が、防災担当相、河野太郎(54)とのテレビ会議に臨んでいた。直前までの県幹部会議で、県や市町村の混乱状況から「県だけで救援物資を市町村に運ぶのは無理だ。手に負えない」との認識で一致していた。
蒲島はテレビ会議で救援部隊の3倍増に加えて、避難者の急増を見越して「水や食料、トイレ、毛布の供給、物資供給のマネジメント(管理)を含めてお願いしたい」と要望した。政府はこの時、初めてのプッシュ型支援の準備に入っていた。(並松昭光)
=文中敬称略、肩書は当時
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