【あの時何が 益城町役場編⑨】あふれた支援物資「無駄にしたくない」
「今、何が足りていませんか」
2016年4月15日夜。益城町に入った報道番組のキャスターの問い掛けに、健康づくり推進課長の安田弘人(59)は「パンと防寒用の毛布が足りない」と答えた。翌朝、県内外の企業や個人から送られた支援物資が続々と到着する。その光景を見た安田は感激で目頭が熱くなった。
町内では多くの店舗が被災。停電と断水も重なり、避難所では食料や水が不足した。被災地に入ったメディアは窮状を伝え、会員制交流サイト(SNS)では支援を求める投稿が拡散。本震後、政府は被災自治体の要請を待たずに物資を被災地に送り込む「プッシュ型支援」を打ち出した。
その一方、集積拠点に運ばれた大量の物資が、被災者に行き渡らない事態が起きていた。受け入れに追われるあまり、配送まで手が回らなかったためだ。総務課長補佐の清水裕士(39)ら物資班は23日、県トラック協会の力を借りて指定避難所に物資を運ぶ「ルート便」を始め、1日4台のトラックが朝昼夕の3回配送した。26日には避難所以外の地区公民館や自宅の軒先などの避難者に物資を届けるため、倉庫に必要な物資を取りに行くことができる通行証を全区長に配布。「区長便」と名付けて運用した。
町は29日、物資不足は落ち着いたとしてホームページ上で受け入れの中断を発表する。ただ、新たな問題が浮上しつつあった。
「これ、ほっとくとどうなるんだろう」。5月上旬、応援に入った県職員の久多見長久(40)は、集積拠点のJA野菜集荷場に積み上がった物資に胸騒ぎを覚えた。インターネットで東日本大震災の事例を調べてみると「余剰物資の処理に多額の費用」という記事が目に留まった。
「早く手を打たないと大変なことになる」。久多見の頭に浮かんだのは、これから建設に着手する応急仮設住宅だった。家屋被害が大きかった益城町には、1500戸以上が整備される見込みだった。
歯ブラシ、ティッシュなどの日用品や県に送られた毛布などを段ボール1箱に詰め、入居前の仮設住宅の全戸に運び込んだ。仮設住宅に入れることができない家具や家電、オムツや生理用品は町内の保育所や福祉施設に引き取ってもらった。「県と町が問題意識を共有し、早い段階で意思統一できた」と久多見。6月下旬に約1平方メートルの荷台で約400個分あった物資は、避難所が閉鎖した10月31日には全てなくなっていた。
8月から町に派遣された県職員の内野美由紀(37)は「公平性の面から見れば正しかったかどうかは分からない」とした上で「善意で送ってもらった物資を無駄にしたくない。その一心だった」。内野は物資班に携わった行政マンたちの思いを代弁した。(益城町取材班)=敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
SKE48の井上瑠夏さん(菊池市出身)、復興支援で熊本県に寄付
熊本日日新聞 -
熊本城「宇土櫓続櫓」の石垣、復旧に向け解体作業に着手 28年度の積み直し完了目指す
熊本日日新聞 -
東日本大震災の語り部が熊本・益城町へ 23日、災害伝承などテーマに講演 熊日と河北新報の防災ワークショップ
熊本日日新聞 -
被災者に寄り添った支援 能登、熊本地震のボラセン運営者講演 日頃から役に立つ分野想定
熊本日日新聞 -
スペシャルオリンピックス日本・熊本、能登の被災地へ義援金贈呈
熊本日日新聞 -
福島の震災復興と被害伝承を考える 東稜高で復興庁の出前授業
熊本日日新聞 -
スイーツ、カレー、てんぷら串…自慢の逸品ずらり 「くまもと復興応援マルシェ」、グランメッセで17日まで
熊本日日新聞 -
行定監督「熊本から恩返し」 30日開幕、復興映画祭PRで県庁訪問
熊本日日新聞 -
くまもとアートボリス推進賞に東海大キャンパスなど3件
熊本日日新聞 -
復興の象徴「ゾロ」に感謝 大津小3年生が誕生日会開催
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「家計管理」。11月25日(月)に更新予定です。