【あの時何が 益城町役場編⑤】混乱する避難所 職員任せだった運営
熊本地震の前震から間もない2016年4月14日午後11時すぎ。益城町政策推進課長の中桐智昭(58)と福祉課長の木下宗徳(56)は、町用車にありったけの毛布と水を詰め込んだ。「手分けして避難所に物資を持って行こう」
最初に向かった広安小には約200人が避難していた。町職員の姿を探したが見当たらない。「おれがここに残るけん」。物資を下ろすと、中桐は木下にそう告げた。町の地域防災計画では中桐ら課長職は災害対策本部に詰めることになっている。しかし、目の前の住民を放ってはおけなかった。
「なんで体育館の中に入れないんだ!」。屋外に敷いたシートの上で夜を過ごす住民から怒声が飛んだ。「すいません。夜中なので建物の安全確認ができないんです」。中桐は頭を下げて回るしかなかった。
「救急車がなかなか来ないんです」。応援に駆けつけた町男女共同参画センター所長の田上恵美(45)に誰かが訴えた。体育館の入り口に頭から血を流している高齢の男性がいる。田上は自分の車に男性と妻を乗せて熊本市東区の市民病院まで運んだ。混乱状態の中で腰を据えて考える余裕などなかった。
前震発生から3時間近くたった15日午前0時すぎ。いきいき長寿課主幹の姫野晶子(57)は、町保健福祉センター「はぴねす」のトイレにいた。停電と断水で汚物が流せず、使用できなくなっている。ごみ袋で覆った手を便器に突っ込み、たまった汚物を取り除き始めた。
保健師でもある姫野は「抵抗はあったが、私たちが何とかしなければという思いだった」と語る。この後も、町職員や住民がバケツの水でトイレを流す作業は、屋外に仮設トイレが整うまで繰り返された。
町交流情報センター「ミナテラス」を担当していた政策推進課係長の藤田智久(44)は、パイプ椅子に座ったまま眠ろうとした直後に再び震度7に襲われた。周りは避難してきた住民でいっぱいだった。2度目の激震が建物に危害を加えた恐れもある。強い揺れがまた来るかもしれない。直ちに屋外に退避するよう住民に呼び掛けた。
ただ、時間がたつにつれ、徐々に気温も下がっていく。住民をこのままにしておいていいのか。建物の中と外はどっちが安全なのか。経験したことのない緊急事態に何が正しいのか分からなくなった。ぎりぎりの判断を迫られた藤田は約1時間後、避難者にこう伝えた。「私たち職員は室内に戻ります。戻りたい方は、ご自身の判断で戻ってください」
町職員の多くが地震直後に駆け付けた先で、なし崩し的に避難所運営に当たった。本震発生で住民の避難生活の長期化が予想される中、現場任せだった避難所運営や人員配置の見直しが急務となる。(益城町取材班)=敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
社会的弱者への配慮、平時から 障害、性的少数者、外国人…災害時に不平等感拡大 熊本市で「ぼうさいこくたい」
熊本日日新聞 -
震災被災の宇土櫓、骨組みだけに 熊本城保存活用委が視察、復旧状況を確認
熊本日日新聞 -
熊本県内2キャンパス、アピール強化と既存建物の見直しを 東海大新総長に就任した松前義昭氏に聞く
熊本日日新聞 -
地震で被災の本堂、修復完了 稚児行列で祝う 宇城市の光照寺
熊本日日新聞 -
熊本地震の横ずれ断層「恐ろしかった」 海外の高校生250人が益城町など見学
熊本日日新聞 -
熊本開催の「ぼうさいこくたい」閉幕 ワークショップ、シンポ…災害対策、教訓伝承学ぶ
熊本日日新聞 -
熊本市議会の自民会派4分裂、合流へのステップ!? 市役所建て替え巡り事態悪化 早期合流には「冷却期間必要」の声
熊本日日新聞 -
熊本など4弁護士会、災害時の法的課題共有 協定に基づき熊本市で会合
熊本日日新聞 -
ヴォルターズ新加入選手、熊本地震学ぶ 23日に益城町で愛媛戦「復興の力に」
熊本日日新聞 -
雁回山登山道 住民ら歩き初め 「城南コース」が8年ぶり開通
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「損害保険」。11月14日(木)に更新予定です。