【あの時何が 熊本市民病院編⑪】赤ちゃん1人にヘリ2機 情報共有できず

熊本日日新聞 2017年4月14日 00:00
熊本市民病院がヘリ離着陸のため使っていた江津湖公園。中央奥に病院が見える=1月、熊本市東区
熊本市民病院がヘリ離着陸のため使っていた江津湖公園。中央奥に病院が見える=1月、熊本市東区

 昨年4月16日。被災した熊本市民病院(同市東区)の患者搬送には、同病院の医師や看護師らだけではなく、県外の医師も数多く関わった。NICU(新生児集中治療室)の空き状況を調べたり、ドクターヘリを飛ばしたり…。各県の緊急消防援助隊も次々に駆けつけた。

 熊本地震で病院間搬送された患者は、市民病院も含めて1290人に上る。医療関係者には、日常の交流を通じて「顔の見える関係があったからスムーズだった」という声が多い。ただ、情報が錯綜[さくそう]する現場では混乱する場面もみられた。

 16日午前。市民病院には、宮崎県の病院に搬送するNICUの赤ちゃんが取り残されていた。「ヘリで運ぶ患者」として、市民病院からDMAT(災害派遣医療チーム)に渡されたリストの13人のうちの1人だ。「ヘリが来る」-。昼ごろになってDMATの北九州総合病院医師、高間辰雄(40)に連絡が入った。ところが、赤ちゃんは既に別のヘリで運ばれようとしていた。「どうなっているんだ」

 別のヘリを手配したのは市民病院の新生児内科部長、川瀬昭彦(48)だ。久留米大病院から促され、県災害対策本部にヘリを要請したのは午前4時台。DMATが市民病院入りする2時間以上前のことだった。

 川瀬はヘリ要請後、搬送の準備を進めていた。離着陸に使うのは江津湖公園。そこまで運ぶ新生児専用救急車の運転手を確保し、さらに安全確保や地上からの支援のため、市消防局の協力も取り付けていた。

 結果として、1人の赤ちゃんのためにヘリが2機確保される事態になった。提出した「ヘリで運ぶ患者13人」のリストの受け止めが、市民病院側とDMATで違ったことが招いた状況だった。

 病院側はヘリ搬送を全面的にDMATに依頼する意図はなく、一方の高間は「ヘリを呼ぶのはDMATの仕事」と考え、病院の医師がヘリを要請しているとは思わなかった。高間は、DMAT対策本部に呼び出した川瀬に言った。「勝手なことしてくれちゃ困るよ」

 支援に駆けつけたDMATは、市民病院にとって「顔も名前も知らない」存在だった。独自の対策本部を立ち上げたDMATと病院側は擦れ違い、情報の共有が難しかった。DMATが去った後、職員のほとんどがどこの医療機関のチームだったのかを知らなかった。高間は、コミュニケーションがうまくいかなかったことを認める。「支援させていただくという気持ちを持つべきだった。冷静さを欠いていた」

 本震発生から約12時間後。市民病院の入院患者310人全員が転院・退院となった。NICUの赤ちゃんも全員無事に搬送された。病院の職員らは憔悴[しょうすい]しきっていた。(森本修代)=文中敬称略

KUMANICHIPICK

くまにちレコメンド
Recommend by Aritsugi Lab.

KUMANICHI レコメンドについて

「KUMANICHI レコメンド」は、熊本大学大学院の有次正義教授の研究室(以下、熊大有次研)が研究・開発中の記事推薦システムです。単語の類似性だけでなく、文脈の言葉の使われ方などから、より人間の思考に近いメカニズムのシステムを目指しています。

熊本日日新聞社はシステムの検証の場として熊日電子版を提供しています。本システムは研究中のため、関係のない記事が掲出されこともあります。あらかじめご了承ください。リンク先はすべて熊日電子版内のコンテンツです。

本システムは「匿名加工情報」を活用して開発されており、あなたの興味・関心を推測してコンテンツを提示しています。匿名加工情報は、氏名や住所などを削除し、ご本人が特定されないよう法令で定める基準に従い加工した情報です。詳しくは 「匿名加工情報の公表について」のページ をご覧ください。

閉じる
注目コンテンツ
熊本地震