【あの時何が 熊本市民病院編⑩】不眠不休の搬送、スタッフも疲弊
県外の転院先が決まった熊本市民病院(同市東区)の患者13人がいる。一刻も早く搬送したいが、ドクターヘリはいつ来るか分からない。昨年4月16日。DMAT(災害派遣医療チーム)の北九州総合病院医師、高間辰雄(40)は、陸路の搬送手段について考え続けた。
1人は人工呼吸器をつけた4歳女児。心臓手術後に合併症を発症し、輸液ポンプ10本を常時必要としていた。移動が困難なため、ICU(集中治療室)に残ったままだ。「この子はヘリでは難しい」。上空では気圧が変化するため、酸素ボンベの積み込みは危険と判断した。輸液ポンプ10本を載せられる場所もヘリにはない。
救急車で搬送するにもポンプ全部を載せるのは困難だ。「搬送中だけ、どれか外してもらえないですか」「外せるものは一つもありません」。主治医は首を横に振った。
近くの道路に自衛隊車両の列が見えた。大型の救急車もあった。あれならポンプ10本を載せられる。切迫早産の4人も「横になる」ことができる。救急車を借りようと、高間は緊急消防援助隊の消防隊員に相談。「自衛隊は任務以外のことはできません」という返事に諦めた。
自前の救急車を使うしかない。高間は、車内の医療器具やスタッフのかばんなどを下ろし、スペースを広げた。ポンプのサイズを測って積み込む場所を綿密に計算すると、10本がすっぽりと車内に収まった。
しかし車内の電源に10本のコードを一度に差し込むと、バッテリーが持たない。臨床工学技士が同乗し、膝の上にコンセントを置いた。一部のポンプを接続し、外したポンプから「電源不足」のエラーが出ると、充電済みと差し替えることにした。九州大病院(福岡市)まで約2時間、手作業の差し替えが続いた。
切迫早産の妊婦4人の転院先は、聖マリア病院(福岡県久留米市)。DMATチームのスタッフに「行ってくれ」と指示した高間は、ポケットにあった携行食のあめを妊婦に配り、「“女子会トーク”しながら、みんなで仲よく行ってくださいね」と明るく送り出した。「本当に女子会トークでしたよ」。後で、スタッフから報告があった。
救急車を運転したスタッフも不眠不休だった。チームは前震後に熊本入りし、15日の昼夜にかけ患者搬送に奔走。東熊本病院(益城町)での搬送中、本震に遭った。休む時間はない。「疲弊したスタッフを使ってしまったことは間違いだった」。高間はそう振り返るが、ほかに選択肢はなかった。
輸液ポンプ10本とともに福岡まで搬送した4歳女児は5日後、転院先で亡くなった。連絡を受け、高間は涙した。女児はその後、震災関連死に認定された。(森本修代)=文中敬称略
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
地震学び、手作り名刺を交換 上天草市の児童ら、南阿蘇村訪れ交流
熊本日日新聞 -
社会的弱者への配慮、平時から 障害、性的少数者、外国人…災害時に不平等感拡大 熊本市で「ぼうさいこくたい」
熊本日日新聞 -
震災被災の宇土櫓、骨組みだけに 熊本城保存活用委が視察、復旧状況を確認
熊本日日新聞 -
熊本県内2キャンパス、アピール強化と既存建物の見直しを 東海大新総長に就任した松前義昭氏に聞く
熊本日日新聞 -
地震で被災の本堂、修復完了 稚児行列で祝う 宇城市の光照寺
熊本日日新聞 -
熊本地震の横ずれ断層「恐ろしかった」 海外の高校生250人が益城町など見学
熊本日日新聞 -
熊本開催の「ぼうさいこくたい」閉幕 ワークショップ、シンポ…災害対策、教訓伝承学ぶ
熊本日日新聞 -
熊本市議会の自民会派4分裂、合流へのステップ!? 市役所建て替え巡り事態悪化 早期合流には「冷却期間必要」の声
熊本日日新聞 -
熊本など4弁護士会、災害時の法的課題共有 協定に基づき熊本市で会合
熊本日日新聞 -
ヴォルターズ新加入選手、熊本地震学ぶ 23日に益城町で愛媛戦「復興の力に」
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「損害保険」。11月14日(木)に更新予定です。