【あの時何が 熊本市民病院編⑥】受け入れ先もベッド不足 県外搬送へ
![熊本市民病院から搬送された赤ちゃんの受け入れ作業に追われる福田病院=2016年4月16日(福田病院提供)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2021-03/6-2.jpg?itok=dsnwCNcd)
昨年4月16日午前5時すぎ。熊本市民病院(同市東区)のNICU(新生児集中治療室)に入院していた赤ちゃん4人を受け入れた熊本大病院(同市中央区)から、再び救急車が出発した。ハンドルを握るのは総合周産期母子センター講師の岩井正憲(51)だ。
2回目の受け入れは5人で、計9人。空きは8床しかなかったが、使っていない保育器が産科にあった。エレベーターが使えない中、助産師らが数人がかりで担いだ。
午前8時ごろ、「もう1人お願いしたい」と依頼があった。計10人。ついに熊大病院のベッドが不足する事態になった。今後、NICUへの入院が必要な赤ちゃんが生まれる可能性もあり、出生直後は長距離搬送が厳しいため、県内で治療できる環境の確保が必要だ。熊大病院も厳しい状況に追い込まれた。
スタッフの疲労も深刻だった。家族と連絡もできないまま仕事を続ける医師、被災した家をそのままに駆けつけた看護師もいる。益城町出身の看護師はテレビが映す地元の状況に激しく動揺した。慎重な対応が必要な患者が増え、スタッフの精神的・肉体的負担は一気に重くなった。「緊急時に対応するためにも、スタッフの負担を減らしたい」。NICUの病棟医長、田仲健一(41)は県外への2次搬送を決める。
市民病院から赤ちゃん11人を受け入れた福田病院(同市中央区)も、同じような状況だった。電子カルテが一時使えない状態となり、通常業務が滞る中、新たな患者の受け入れで緊張感が増していた。新生児科部長の高橋大二郎(41)も県外搬送を考えていたが、悩んでいた。
「親も被災していて、県外までなかなか会いにはいけないだろう。それでも出した方がいいのか」。考え抜き、そして決断した。「スタッフも被災している。ハードな生活をしながらハードな医療をすれば事故が起きかねない。事故は絶対に避けなければならない」
県外搬送に向け、それぞれの病院が動き始めたころ、熊大病院に電話があった。「こちらで何かできることはありませんか」。大阪大病院を通じて、市民病院への協力依頼を受け、九州にあるNICUの状況を調べていた久留米大病院准教授の岩田欧介(48)からだった。
どこの病院に空きがあるのか-。熊大側の要望を聞いて岩田は、九州各県のNICUの空き状況や担当者の携帯電話番号、メールアドレスなどをまとめた表を作成。関係者が誰でも確認できるように、インターネット上に共有ボックスを開設。「迎えに行けるか」などの情報も追加した。熊大病院の田仲は表を見て、九大病院などに連絡し、引き受けが決まった。問題は搬送手段だった。(森本修代)=文中敬称略
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