【あの時何が 熊本市民病院編⑥】受け入れ先もベッド不足 県外搬送へ
昨年4月16日午前5時すぎ。熊本市民病院(同市東区)のNICU(新生児集中治療室)に入院していた赤ちゃん4人を受け入れた熊本大病院(同市中央区)から、再び救急車が出発した。ハンドルを握るのは総合周産期母子センター講師の岩井正憲(51)だ。
2回目の受け入れは5人で、計9人。空きは8床しかなかったが、使っていない保育器が産科にあった。エレベーターが使えない中、助産師らが数人がかりで担いだ。
午前8時ごろ、「もう1人お願いしたい」と依頼があった。計10人。ついに熊大病院のベッドが不足する事態になった。今後、NICUへの入院が必要な赤ちゃんが生まれる可能性もあり、出生直後は長距離搬送が厳しいため、県内で治療できる環境の確保が必要だ。熊大病院も厳しい状況に追い込まれた。
スタッフの疲労も深刻だった。家族と連絡もできないまま仕事を続ける医師、被災した家をそのままに駆けつけた看護師もいる。益城町出身の看護師はテレビが映す地元の状況に激しく動揺した。慎重な対応が必要な患者が増え、スタッフの精神的・肉体的負担は一気に重くなった。「緊急時に対応するためにも、スタッフの負担を減らしたい」。NICUの病棟医長、田仲健一(41)は県外への2次搬送を決める。
市民病院から赤ちゃん11人を受け入れた福田病院(同市中央区)も、同じような状況だった。電子カルテが一時使えない状態となり、通常業務が滞る中、新たな患者の受け入れで緊張感が増していた。新生児科部長の高橋大二郎(41)も県外搬送を考えていたが、悩んでいた。
「親も被災していて、県外までなかなか会いにはいけないだろう。それでも出した方がいいのか」。考え抜き、そして決断した。「スタッフも被災している。ハードな生活をしながらハードな医療をすれば事故が起きかねない。事故は絶対に避けなければならない」
県外搬送に向け、それぞれの病院が動き始めたころ、熊大病院に電話があった。「こちらで何かできることはありませんか」。大阪大病院を通じて、市民病院への協力依頼を受け、九州にあるNICUの状況を調べていた久留米大病院准教授の岩田欧介(48)からだった。
どこの病院に空きがあるのか-。熊大側の要望を聞いて岩田は、九州各県のNICUの空き状況や担当者の携帯電話番号、メールアドレスなどをまとめた表を作成。関係者が誰でも確認できるように、インターネット上に共有ボックスを開設。「迎えに行けるか」などの情報も追加した。熊大病院の田仲は表を見て、九大病院などに連絡し、引き受けが決まった。問題は搬送手段だった。(森本修代)=文中敬称略
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
「安全な車中泊」普及へ、熊本で産学官連携 避難者の実態把握、情報提供…双方向のアプリ開発へ
熊本日日新聞 -
石之室古墳、石棺修復へ作業場設置 熊本市の塚原古墳群 2027年度から復旧工事
熊本日日新聞 -
中居さん引退「気持ちの整理つかない」 県内ファン、驚きと困惑
熊本日日新聞 -
4期16年「県民の幸せに尽くした」 前熊本県知事・蒲島氏が講演 熊日情報文化懇話会1月例会
熊本日日新聞 -
【あの日から 阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊦】伝承、防災考えるきっかけに 北淡震災記念公園総支配人の米山さん
熊本日日新聞 -
2026年夏に観光企画「熊本DC」 県、JR、観光団体などの実行委が設立総会 全国に魅力発信
熊本日日新聞 -
旧熊本市民病院跡地、商業施設に 同仁グループが落札 スーパーなど誘致、2026年12月開業予定
熊本日日新聞 -
【あの日から・阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊥】「生の資料」防災に生かす 人と防災未来センター主任研究員の林田さん
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災…大津町のカライモ農園、国から「宝」と評価された理由は?
熊本日日新聞 -
【あの日から・阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊤】30年過ぎても「被災者」 見えない傷、長期支援を 神戸市のNPO法人「よろず相談室」元代表の牧さん
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学びましょう。
※この連載企画の更新は終了しました。1年間のご愛読、ありがとうございました。エフエム熊本のラジオ版「聴いて得する!お金の話『まね得』」は、引き続き放送中です。