「匿名出産あったから人生築けた」 フランス人女性の胸中 「出自分からず苦しむ」…メディアの見方に違和感 <ゆりかご15年>連載 第6部①
「匿名出産制度があることで、生まれることができた」。フランスに住むシャルロットさん(29)は、自らの出自について、静かに語り始めた。生まれてすぐにいまの両親に託され、成長した。写真が1枚残る生みの母親のことは、下の名前だけ知っている。
妊婦が匿名のまま病院で無料で出産できる仕組みが200年以上前に始まったフランス。シャルロットさんもこの制度で、新たな家族との絆をつないだ。
生みの母親について、「私の元から去らなければいけない事情があった。そして、彼女は私の人生にいない。とても明らかなこと」と心境を語る。
シャルロットさん(29)は幼い頃から、生みの母親が匿名出産し養子縁組に託したことを養親から聞いてきた。「私にとっては生みの親と養親、両方がいる。一般の人は生みの親が本当の親だと考えますが、私には当てはまらない。いま一緒にいるのが、本当の親です」
出自については、「これまで考えたことがなかった。なぜ考えたことがないか、ということも考えなかった」。ただ、時に苦しみや難しさも感じてきた。
本当の両親なの? いつ実親を探しにいくの? つらい気持ちもあるんでしょ?-。そんな問いかけは、「私にとっては大事じゃなかった」。フランスのメディアが、匿名出産で生まれた子どもを「出自が分からず苦しんだ」と一般化して伝えることもあり違和感を感じていた。
匿名出産を「お母さんも子どもも守られる制度」と受け止めている。「完璧でなかったとしても、いい環境で育つことができる。そのことを社会に伝えたい」。これまで取材には応じてこなかったが、昨年11月に初めて熊日のインタビューに答えた。
「成長していく中で自分自身(アイデンティティー)を築くことが難しいか、簡単か。一般の人と同じように人によって違う」という。匿名出産で出自が分からないから難しいのではなく、「社会に理解されていないから難しい」。
匿名出産を選ぶ女性たちについて「子どもが将来家族に囲まれて育ち、人生を築く機会を与えてくれた。とても勇気があり、たくましいと思う」と話す。
フランスでは毎年約500人の子どもが匿名出産で生まれている。国内のどの病院でも産むことができ、公的機関を通じて養子縁組する。生まれた時の状況など出自に関する情報は国が管理する。
パリの北、セーヌサンドニ県で養子縁組したナシム君(7)もその1人だ。
母親のキャティ・ヤブカさんは6年前、アルジェリア出身の夫と養子縁組事務所のドアをたたいた。ナシム君を生んだ32歳のモロッコ人女性からは、「私にとって前向きな選択として、息子にはなるべくいい人生を送ってほしい」との手紙が託されたという。
里親支援に携わるキャティさんは、経験から肌の色など「見た目から養子と分かると難しさが加わるのではないかと思っていた」と語る。縁組では欧州かアフリカ出身の子どもを希望。だが、一緒に暮らす中で「話し方やしぐさは、私たち夫婦に似ている」と考えるようになった。肌の色はナシム君の方が父親より黒いが「肌の色が違ってもここまで家族になれるのは誇り」と胸を張る。
◇ ◇
親が育てられない子どもを匿名でも預かり、養親に託す取り組みは欧州で先行してきた。国内どこでも匿名出産できるフランスと、慈恵病院(熊本市西区)が「こうのとりのゆりかご」を導入する際に参考にしたドイツの取り組みを報告する。(「ゆりかご15年」取材班)
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