【あの時何が 益城町役場編⑭】豪雨被害支援、朝倉市に「恩返し」
2017年7月9日夜、益城町危機管理課の奥村敬介(31)の携帯電話が鳴った。熊本地震の際、避難所となった広安小体育館で出会った一般社団法人・危機管理教育研究所代表の国崎信江(48)からだった。
「朝倉市の避難所が大変な状況です。益城町から応援に来ていただけると助かります」
国崎は、4日前に起きた福岡・大分豪雨で大きな被害を受けた福岡県朝倉市に入り、支援活動を始めていた。
翌10日、奥村は総務課長の中桐智昭(58)に直談判した。「朝倉に行くなら早い方がいいと思います」。復旧・復興に向け、益城町も人手不足の状況だったが、中桐は朝倉市に電話をかけ、応援職員を派遣する意向を伝えた。熊本地震では朝倉市の職員を派遣してもらっていた。「何らかの形で恩返しをしたい」という思いは中桐も同じだった。
派遣が決まったのは、避難所運営の経験がある奥村と災害救助法に精通している福祉課の吉住由美(47)。11日朝、町長や職員約20人が拍手で送る中、2人は朝倉市へ急いだ。
朝倉市役所では、担当職員が2人の到着を待っていた。直ちに打ち合わせに入り、特に混乱している杷木地区の3カ所の避難所を巡回。避難所では住民が体育館の床に雑魚寝し、壁一面には物資配布などを知らせる張り紙があった。「あの時の益城と同じ状況だ」と奥村は思った。
職員も余裕をなくしている。奥村はまずリーダー役の住民を探し始めた。ほどなく一人の年配男性と出会った。男性は「市の職員がローテーションで次々に代わって困る」と告げた。ほかの避難所でも、住民たちは同じ不満を口にした。
全域が被災した益城町とは異なり、朝倉市の被害は局所的だったため、職員は通常業務をこなしながら災害対応に当たっていた。「避難所の職員を固定しないと住民との信頼関係は築けない」。市の担当者に「安定的に同じ職員を入れてください」と進言した。奥村は朝倉市の要請を受け、計6日間支援に携わった。
熊本地震を経験し、奥村は最近こう考えるようになった。
自然災害は今後、どこでも起こり得る。被災を経験した全国の行政職員であらかじめ専門チームをつくれば、初動対応からうまくいくのではないか、と。
「阪神、新潟、東日本…。大きな災害が起きていたのに僕らは、ほぼノーガードだった」と奥村。「行政って大災害が起きると弱いじゃないですか。そんな状況を変えたい。負けっ放しは嫌なんです」(熊本地震益城町取材班)=文中敬称略、肩書は当時
*益城町役場編は終了。久保田尚之、後藤幸樹、岩崎健示、浪床敬子が担当しました。
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