【あの時何が 熊本市民病院編⑧】鹿児島のドクターヘリ 赤ちゃん搬送に尽力
地震で被災した熊本市民病院(同市東区)から、赤ちゃんを引き受けた熊本大病院(同市中央区)。空きベッドがいっぱいとなり、県外医療機関への2次搬送を迫られていた。その役割を主に担ったのは鹿児島県のドクターヘリだった。
昨年4月16日。鹿児島市立病院の新生児内科医師、平川英司(37)は市民病院から直接、体重千グラム未満の赤ちゃんをヘリで搬送。その後、熊大病院から九州大病院(福岡市)の間を2往復した。夕方、日没ぎりぎりには破水した妊婦を宇城総合病院から鹿児島市立病院に運んだ。
市民病院から赤ちゃん11人を引き受けた福田病院(熊本市中央区)からも、「2次搬送したい」という連絡があった。鹿児島市立病院の医師が当直の応援をするなど、日ごろから交流がある。平川は17日朝から、近くにある国立病院機構熊本医療センターのヘリポートを使い、搬送を始めた。鹿児島との間を4往復し、5人を運んだ。
鹿児島県のヘリによる搬送は16、17の2日間で、計10人(母親含む)に上った。平川はDMAT(災害派遣医療チーム)と情報を共有するため、厚生労働省が構築した広域災害救急医療情報システム(EMIS)に「鹿児島のヘリは赤ちゃん搬送をしています」と書き込んだ。「災害時はできる人ができることをするのが大切。赤ちゃんを引き受ければ、ほかのヘリはほかの患者を運べる」と考えていたからだった。
DMAT側からは「指揮下に入らず、鹿児島が独自に飛んでいるのは問題ではないか」との声も出た。これに対し、熊本県災害対策本部でドクターヘリ搬送の調整をした佐賀県医療センター好生館(佐賀市)の救命救急センター副センター長、佐藤友子(46)は振り返る。
「小さい赤ちゃんの搬送は慣れている人でなければ難しい。鹿児島のヘリが積極的に搬送してくれたことは、結果的に一番いい方法だった。情報共有ができれば問題はない」
一方、市民病院で三つ子を出産した渡邊晴香(32)=芦北町=は、本震の発生後、リハビリ室でわが子の無事を確認。その日のうちに退院となり、家族の車で慌ただしく自宅に帰った。スリッパのままだった。
三つ子は市民病院から福田病院に運ばれ、翌17日に鹿児島市立病院にヘリで搬送された。その後、救急車で今給黎[いまきいれ]総合病院(鹿児島市)に移って入院、約1カ月後に退院した。
2月下旬、芦北町の自宅。健琉[たける]ちゃん、翔琉[かける]ちゃん、煌琉[ひかる]ちゃんの3人は8キロ前後に成長し、元気にハイハイしていた。父親の勤(31)は「多くの人の協力で無事に運んでもらい、感謝しています。これからも子どもたちは困難を乗り越えてくれると思う」と話す。(森本修代)=文中敬称略
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