【あの時何が 県災害対策本部編⑦】SNSで不足物資訴え、全国から届く
昨年4月16日の本震から4日間、店頭で被災者におにぎりを無料配布した熊本市西区の弁当店「はらペコキッチン」。店主の東真理(50)は短文投稿サイト「ツイッター」の情報発信力に驚いた。
高校3年の長女(18)が同日朝、近所の被災者向けに店の住所を記し「おにぎりを配っています」と投稿した。すると、同日夕、福岡県宗像市の農家の男性が「役立ててほしい」と米70キロとポリタンクの水を持って店を訪ねてきた。
さらに約1週間で全国から計約30件、コメと水が届いた。東は「あっという間に情報が広がり、見ず知らずの方から支援をいただいた」と振り返る。
東日本大震災で被災者の新たな情報発信手段として注目された会員制交流サイト(SNS)。熊本地震でもフェイスブックやツイッターなどは支援を求める投稿であふれ、全国から物資が集まるなど威力を発揮した。
国もネットを飛び交う支援要請に敏感だった。本震後の19日、政府現地対策本部(政府現対)に派遣された国土交通省の大臣官房審議官、田村秀夫(57)は空路で福岡入りし熊本へ向かう車中で、首相官邸から指示を受けた。「物資が足りないといった情報がいろいろ出ている。全部確認して改善してほしい」
国立情報通信研究機構(東京)は東日本大震災を機に、ツイッターの投稿を検索・分析するシステム「DISAANA(ディサーナ)」を開発。内閣官房が熊本地震で初めて活用した。「食料が足りない」「水がない」など物資不足を伝える投稿を東京で集め、田村に打ち返した。
同機構によると、熊本地震発生から1週間で、ツイッターに投稿された県内の地名を含む日本語の投稿は約5千件。毎日、田村の手元に届くA4判の資料は物資不足を訴える数百の投稿で埋まった。
ただ、多くは真偽不明。被災市町村に派遣した国交省の情報連絡員らを中心に確認する態勢を整えたが、「全部は無理だ」。政府現対のメンバーらから悲鳴が上がった。
それでも確認に動きだしたが、予想通り難航。物資が届いて「対応済み」となったはずの情報が消されずにネット上を漂い、官邸が再びキャッチして田村に連絡してきたこともあった。「投稿の中の建物が実在しない、地名が違うなど不正確な情報も多く、振り回された」。対応した複数の県幹部は振り返る。
益城町職員で救援物資の調達を担当した千代田卓(30)もSNSへの対応に追われた。町保健福祉センターで粉ミルクと紙おむつを配った際、誰かが善意でSNSに投稿した。すると町外の被災者から問い合わせが殺到。数に限りがあり、慌ててSNSに「町内の避難者に配っています」と書き込んだ。
「町の対応への批判もあった」。SNSの光も影も痛感した千代田は少し複雑な表情を見せた。(並松昭光)=文中敬称略、肩書は当時
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