【あの時何が 益城町役場編④】震度7再び…染み付いた恐怖
益城町長の西村博則(61)は、役場庁舎2階の町長室で今後の対応に思いを巡らせていた。2016年4月16日午前1時25分。「また来た!」。緊張が走る。28時間前に経験した震度7より横揺れが激しく、長い。「余震じゃないのか」。机に必死でしがみついた。「ここで俺も終わりか」と命の危険を初めて感じた。
「外に逃げろ!」。暗闇の中で総務課長の森田茂(61)の声が響いた。近くにいた防災係長の岩本武継(51)は、懐中電灯を手に1階の職員用玄関を目指す。途中で何度も余震が起き、「ガシャン、ガシャン」という鈍い音が外から聞こえてきた。周辺の民家が倒壊する音だと直感した。ようやく外に出ると、異様な臭いが鼻を突き、立ち込めるほこりが目を刺した。
この頃、住民が避難する町交流情報センター「ミナテラス」で対応に追われていた政策推進課係長の藤田智久(44)は、異様な音に空を見上げた。「キィィィーン!」。2機の戦闘機が上空を何度か旋回し、西の方角へ消えていくのが見えた。「何だ、あれは…」
複数の町職員が目撃した戦闘機は、自衛隊が被害の状況をいち早く知るために飛ばしたものだった。一定規模以上の大災害が発生した場合、自衛隊は派遣要請を受ける前でも自主的に情報収集活動を始める。14日には前震から21分後の午後9時47分に福岡県の航空自衛隊築城基地から戦闘機2機が緊急発進。本震の日も発生から15分後の午前1時40分に同基地を飛び立っている。
再び役場駐車場に移った町の災害対策本部は混乱を極めていた。
「2人が心肺停止」
「搬送者の死亡を確認」
現場から上がってくる救助要請や被害情報が、ホワイトボードを埋め尽くしていく。その数は14日の夜をはるかに超えた。しかし、町民の安否は救助や捜索に当たる消防、警察、自衛隊の情報に頼らざるを得なかった。
空が白み始めると、変わり果てた街並みがうっすらと見えてきた。都市計画課長の杉浦信正(59)は当時の心境をこう語る。「3度目が来るんじゃないか。その恐怖が心に染み付いてしまった」
再び被災した役場庁舎には無数のひびが入り、敷地には陥没や亀裂が確認された。倒壊の恐れもあるため、町災害対策本部は16日午後1時、再び町保健福祉センター「はぴねす」へ移った。ただ、司令塔として機能し始めるのは本震の3日後。西村は役場庁舎の応急工事が終わる5月2日まで、はぴねすで指揮を執り続けることになる。(益城町取材班)=文中敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
社会的弱者への配慮、平時から 障害、性的少数者、外国人…災害時に不平等感拡大 熊本市で「ぼうさいこくたい」
熊本日日新聞 -
震災被災の宇土櫓、骨組みだけに 熊本城保存活用委が視察、復旧状況を確認
熊本日日新聞 -
熊本県内2キャンパス、アピール強化と既存建物の見直しを 東海大新総長に就任した松前義昭氏に聞く
熊本日日新聞 -
地震で被災の本堂、修復完了 稚児行列で祝う 宇城市の光照寺
熊本日日新聞 -
熊本地震の横ずれ断層「恐ろしかった」 海外の高校生250人が益城町など見学
熊本日日新聞 -
熊本開催の「ぼうさいこくたい」閉幕 ワークショップ、シンポ…災害対策、教訓伝承学ぶ
熊本日日新聞 -
熊本市議会の自民会派4分裂、合流へのステップ!? 市役所建て替え巡り事態悪化 早期合流には「冷却期間必要」の声
熊本日日新聞 -
熊本など4弁護士会、災害時の法的課題共有 協定に基づき熊本市で会合
熊本日日新聞 -
ヴォルターズ新加入選手、熊本地震学ぶ 23日に益城町で愛媛戦「復興の力に」
熊本日日新聞 -
雁回山登山道 住民ら歩き初め 「城南コース」が8年ぶり開通
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学んでいきましょう。
※次回は「損害保険」。11月14日(木)に更新予定です。