【あの時何が 被災地障害者センター編⑩】生活再建へ 個々の事情に耳傾け
「SOSちらし」をきっかけに、被災地障害者センターくまもとによる被災者支援が拡大したのは2016年7月以降だった。熊本地震発生から2カ月半、助けを求める声が浮かび上がってこなかったのは「障害者が社会から“見えない存在”になっていたからだ」と障害者センター事務局長の東俊裕(65)は憤る。
「一般の被災者が求める支援は、人々が避難所に集まることで顕在化し、大量の物資や人的支援、避難生活や復旧・復興に向けた情報が行政や民間団体から届けられる。しかし多くの障害者は地域の避難所に入れず、公的な支援の仕組みに乗ることさえできなかった」
この構図は、損壊した自宅や周辺にとどまった「軒先避難」の住民にも当てはまる。「公の避難所だけを前提とした災害支援は、網の目からこぼれ落ちる存在を生んでいる」
一方、幅広く被災者を受け入れた熊本学園大(熊本市中央区)。障害の有無にかかわらず包括的な対応を図った「インクルーシブ避難所」は開設間もない時期から、個々の事情に目を向けていた。
「自分の知識や技術を使って何かできないか」。作業療法士の浜砂美幸(50)は4月20日から母校に通い始めた。熊本市内の精神科病院に勤務するキャリアを生かし、任されたのは避難者へのヒアリング。仕事を終えて夜の避難所に入るたび、浜砂は一人一人の声に耳を傾けた。
傾聴を重ねながら、3項目の質問も用意した。避難所を統括した水俣学研究センター長の教授、花田昌宣(65)らと確認し合ったのは、「避難所に求めたい改善点」のほか「自宅の状況は?」「どうしてここに避難して、なぜ帰れないのか?」。個々の生活再建を見通し、「家の中は家具が散乱したまま。自分だけでは片付けられないので帰れない」との声があればボランティアの手配につなげた。当時、公的な災害ボランティアセンターによる支援は「10日待ち」といった状態。花田は「避難所として、自前でボランティア派遣もした」と振り返る。
ある夜、浜砂は避難所内で中学時代の恩師夫婦と再会した。恩師は就寝時に呼吸を補助する器具が欠かせない状態だったが、学園大に来る前に身を寄せた別の避難所では電源の確保もままならなかったという。耳が遠く、筆談のやりとり。容体の急変もあり得たが、恩師は「延命はしないでください」と浜砂に伝えた。
美術教師だった恩師の自宅は破損して、アトリエは水浸し。それでも「人生の最後に新しい体験ができました」と前向きに受け止めていた。その恩師は17年12月に死去。託された紙粘土製の仏像を手に浜砂は「私の方が励まされた」と振り返る。恩師に限らず、避難者はさまざまな事情を抱えながらも震災と向き合い「生き方」を問い掛けていた、と感じている。=文中敬称略(小多崇)
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