【あの時何が JVOAD・火の国会議編①】“災害支援のプロ”全国から
「熊本で震度7」-。2016年4月14日夜、東京・JR東中野駅で災害情報メールを受けたNPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD[ジェイボアード]、当時は準備会)の事務局長、明城[みょうじょう]徹也(46)はその内容を即座にのみ込めなかった。「熊本だって? 間違いじゃないのか」
福井県出身で米国留学後、国際NGOで紛争地支援にも関わった明城だが、熊本に縁があった。かつて勤務していた建設会社が請け負った総合病院の新築工事で1年間、熊本市で暮らし、「地震は少ない」との印象があった。
すぐに仙台市にいたJVOAD代表理事(準備会代表)の栗田暢之[のぶゆき](52)に連絡を入れた。栗田は、阪神・淡路大震災で大学職員として学生ボランティアをコーディネートして以来、災害支援に長年かかわるエキスパート。阪神後に発足した「震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)」や、地元名古屋市に本部を置く認定NPO法人「レスキューストックヤード(RSY)」で代表を務めている。
2人は東日本大震災で出会い、共有した「ある課題」を解決しようとJVOAD設立を進めていた。設立総会は2カ月後で骨格は整っていたが、常駐スタッフは明城だけだ。それでも「熊本に入ってくれ」。栗田は迷いなく明城に指示した。
一方、栗田と長年行動を共にする震つな事務局長の松山文紀(45)はその夜、都内にいた。災害支援は「虫の目、鳥の目が重要」と言う松山。被災者一人一人に寄り添うと同時に、俯瞰[ふかん]して情報を整理し、支援をつなぐ役割が欠かせない。そんな人材を育てようと、松山らは日本財団主催の第1期コーディネーター育成の事務局を務め、前日までに初研修を終えたばかりだった。
東京で「情報を収集する立場」に徹しようと考えた松山の脳裏には、頼もしい面々の顔が浮かんでいた。第1期に先んじて前年、連携・調整の大切さを学び合った「0期メンバー」の17人だ。いずれも、災害支援を全国各地で長く経験したつわもの。そんな“支援のプロ”たちの多くは、既に動きだしていた。
災害NGO結[ゆい]代表の前原土武[とむ](39)は15年9月に起きた鬼怒川決壊の被災地・茨城県常総市で支援を続けていたが、前震後すぐにワゴン車を駆って西へ。15日にはRSYの常務理事・浦野愛(41)や事務局次長・松永鎌矢[けんや](27)、一般社団法人ピースボート災害ボランティアセンター(東京都)の事務局長、上島安裕(35)らも活動中の各地から続々、熊本に入った。
明城にとっても旧知の仲間だ。15日深夜に大津町のホテルで浦野、松永と合流し、打ち合わせを終えたのは16日午前1時すぎ。空腹に気付いた明城は自室で、カップラーメンをやっと口にした。
その時、手にしたカップから麺と汁が飛び出し宙を舞った。すべてを揺さぶる本震。局面が大きく変わる瞬間だった。
東日本大震災で活動したボランティアは推計550万人。このうち個人ボランティアが150万人で、NPOなどを介したボランティアは400万人に上る。それぞれ専門性を発揮した一方、栗田や明城らが感じた「ある課題」とは、「動きがばらばらで“空中戦”になってしまった。連携を欠き、支援の漏れ、むらが生じた」ことだった。
この課題を熊本でどう乗り越えるか。設立前のJVOADは、いきなり真価を問われる局面に立たされた。=文中敬称略
◇
阪神大震災以降、災害時に力を発揮するボランティア。本格的な連携が図られた熊本地震は災害史上、新たな転換点になったとされる。JVOADの活動と連携の舞台となった「火の国会議」を中心に、被災地に集まった「市民の力」を追う。(小多崇)
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