【あの時何が JVOAD・火の国会議編⑫】“熊本モデル”で今後の大災害に備え
9月9日の夕暮れ時、福岡県の朝倉市役所朝倉支所の2階会議室には約20人が集まっていた。日中の活動で汗まみれになったボランティア団体の代表や県市の担当者ら。全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD[ジェイボアード])の呼び掛けで、開かれている九州北部豪雨支援者情報共有会議だ。「熊本地震・支援団体火の国会議」がモデルとなった。
この夜が40回目。「家から土砂を出せないまま、夫だけ2階に寝て、妻と息子は車中泊を続けている世帯がある」「農家の疲弊が深刻。行政の対応待ちの状態で関わり方が難しい」。ボランティアが見聞きし、感じた被災者の今が報告される。
熊本でも活躍したJVOAD事務局長の明城[みょうじょう]徹也(46)やピースボート災害ボランティアセンター事務局長の上島安裕(35)、福岡に軸足を移した支援団体のメンバーの姿も。「支援者間で情報や課題を共有し、効率的な活動につなげる」-。会議の目的が室内に張られている。
熊本地震が起きた2016年は、国内の災害支援にとって大きな節目となった。国は防災基本計画に「ボランティアとの連携」を明記。民間側の要となるJVOADが発足し、火の国会議が連携の舞台となった。首都直下地震や南海トラフ巨大地震を見通せば「火の国会議のような場を平時から全国に広げる必要がある」と当時、内閣府企画官として連携分野を担当した児玉克敏(48)。佐賀県や福井県などでは、熊本での取り組みを参考に広域連携研修会が開かれるようになってきた。
ただ、熊本の動きが全てベストではなかった。火の国会議は県域全体の連携を狙ったが、開催地の熊本市との主要ルートが断たれた南阿蘇村などの情報の共有は不十分だった。災害ボランティアセンターも課題が残り、「16年の台風で被災した北海道南富良野町では住民が積極的に参画し、地元主体で運営されたが、熊本では住民による運営支援はほとんどなかった」と全国社会福祉協議会の園崎秀治(46)。「支え合いや連携がいざという時に機能する社会を目指すべきだ」と、日頃からの地域づくりに目を向ける。
火の国会議は今も、週1回開かれている。JVOADを引き継ぐ格好で昨年10月に発足したNPO法人くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD[ケイボアド])を中心に「情報と課題の共有」を継続。県外の支援団体が減る中、地元主体の取り組みが求められている。代表理事の樋口務(56)は“熊本モデル”の深化を誓う。「フェーズ(局面)の変化に応じ、被災地では次々に新たな課題が生じる。発生直後だけでなく今後も連携を図り、被災者の生活再建や復興を支えたい」(小多崇)=文中敬称略
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
「安全な車中泊」普及へ、熊本で産学官連携 避難者の実態把握、情報提供…双方向のアプリ開発へ
熊本日日新聞 -
石之室古墳、石棺修復へ作業場設置 熊本市の塚原古墳群 2027年度から復旧工事
熊本日日新聞 -
中居さん引退「気持ちの整理つかない」 県内ファン、驚きと困惑
熊本日日新聞 -
4期16年「県民の幸せに尽くした」 前熊本県知事・蒲島氏が講演 熊日情報文化懇話会1月例会
熊本日日新聞 -
【あの日から 阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊦】伝承、防災考えるきっかけに 北淡震災記念公園総支配人の米山さん
熊本日日新聞 -
2026年夏に観光企画「熊本DC」 県、JR、観光団体などの実行委が設立総会 全国に魅力発信
熊本日日新聞 -
旧熊本市民病院跡地、商業施設に 同仁グループが落札 スーパーなど誘致、2026年12月開業予定
熊本日日新聞 -
【あの日から・阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊥】「生の資料」防災に生かす 人と防災未来センター主任研究員の林田さん
熊本日日新聞 -
熊本地震で被災…大津町のカライモ農園、国から「宝」と評価された理由は?
熊本日日新聞 -
【あの日から・阪神大震災30年=インタビュー「熊本への助言」㊤】30年過ぎても「被災者」 見えない傷、長期支援を 神戸市のNPO法人「よろず相談室」元代表の牧さん
熊本日日新聞
STORY
連載・企画-
移動の足を考える
熊本都市圏の住民の間には、慢性化している交通渋滞への不満が強くあります。台湾積体電路製造(TSMC)の菊陽町進出などでこの状況に拍車が掛かるとみられる中、「渋滞都市」から抜け出す取り組みが急務。その切り札とみられるのが公共交通機関の活性化です。連載企画「移動の足を考える」では、それぞれの交通機関の現状を紹介し、あるべき姿を模索します。
-
学んで得する!お金の話「まね得」
お金に関する知識が生活防衛やより良い生活につながる時代。税金や年金、投資に新NISA、相続や保険などお金に関わる正しい知識を、しっかりした家計管理で安心して生活したい記者と一緒に、楽しく学びましょう。
※この連載企画の更新は終了しました。1年間のご愛読、ありがとうございました。エフエム熊本のラジオ版「聴いて得する!お金の話『まね得』」は、引き続き放送中です。