【あの時何が JVOAD・火の国会議編①】“災害支援のプロ”全国から

熊本日日新聞 2017年9月3日 00:00
倒壊した公民館でがれきの撤去をするボランティアたち=昨年4月29日、益城町(岩崎健示)
倒壊した公民館でがれきの撤去をするボランティアたち=昨年4月29日、益城町(岩崎健示)
県内外から大勢のボランティアが詰め掛けた花畑広場の受付会場=昨日4月22日、熊本市中央区(谷川剛)
県内外から大勢のボランティアが詰め掛けた花畑広場の受付会場=昨日4月22日、熊本市中央区(谷川剛)

 「熊本で震度7」-。2016年4月14日夜、東京・JR東中野駅で災害情報メールを受けたNPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD[ジェイボアード]、当時は準備会)の事務局長、明城[みょうじょう]徹也(46)はその内容を即座にのみ込めなかった。「熊本だって? 間違いじゃないのか」

 福井県出身で米国留学後、国際NGOで紛争地支援にも関わった明城だが、熊本に縁があった。かつて勤務していた建設会社が請け負った総合病院の新築工事で1年間、熊本市で暮らし、「地震は少ない」との印象があった。

 すぐに仙台市にいたJVOAD代表理事(準備会代表)の栗田暢之[のぶゆき](52)に連絡を入れた。栗田は、阪神・淡路大震災で大学職員として学生ボランティアをコーディネートして以来、災害支援に長年かかわるエキスパート。阪神後に発足した「震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)」や、地元名古屋市に本部を置く認定NPO法人「レスキューストックヤード(RSY)」で代表を務めている。

 2人は東日本大震災で出会い、共有した「ある課題」を解決しようとJVOAD設立を進めていた。設立総会は2カ月後で骨格は整っていたが、常駐スタッフは明城だけだ。それでも「熊本に入ってくれ」。栗田は迷いなく明城に指示した。

 一方、栗田と長年行動を共にする震つな事務局長の松山文紀(45)はその夜、都内にいた。災害支援は「虫の目、鳥の目が重要」と言う松山。被災者一人一人に寄り添うと同時に、俯瞰[ふかん]して情報を整理し、支援をつなぐ役割が欠かせない。そんな人材を育てようと、松山らは日本財団主催の第1期コーディネーター育成の事務局を務め、前日までに初研修を終えたばかりだった。

 東京で「情報を収集する立場」に徹しようと考えた松山の脳裏には、頼もしい面々の顔が浮かんでいた。第1期に先んじて前年、連携・調整の大切さを学び合った「0期メンバー」の17人だ。いずれも、災害支援を全国各地で長く経験したつわもの。そんな“支援のプロ”たちの多くは、既に動きだしていた。

 災害NGO結[ゆい]代表の前原土武[とむ](39)は15年9月に起きた鬼怒川決壊の被災地・茨城県常総市で支援を続けていたが、前震後すぐにワゴン車を駆って西へ。15日にはRSYの常務理事・浦野愛(41)や事務局次長・松永鎌矢[けんや](27)、一般社団法人ピースボート災害ボランティアセンター(東京都)の事務局長、上島安裕(35)らも活動中の各地から続々、熊本に入った。

 明城にとっても旧知の仲間だ。15日深夜に大津町のホテルで浦野、松永と合流し、打ち合わせを終えたのは16日午前1時すぎ。空腹に気付いた明城は自室で、カップラーメンをやっと口にした。

 その時、手にしたカップから麺と汁が飛び出し宙を舞った。すべてを揺さぶる本震。局面が大きく変わる瞬間だった。

 東日本大震災で活動したボランティアは推計550万人。このうち個人ボランティアが150万人で、NPOなどを介したボランティアは400万人に上る。それぞれ専門性を発揮した一方、栗田や明城らが感じた「ある課題」とは、「動きがばらばらで“空中戦”になってしまった。連携を欠き、支援の漏れ、むらが生じた」ことだった。

 この課題を熊本でどう乗り越えるか。設立前のJVOADは、いきなり真価を問われる局面に立たされた。=文中敬称略

     ◇

 阪神大震災以降、災害時に力を発揮するボランティア。本格的な連携が図られた熊本地震は災害史上、新たな転換点になったとされる。JVOADの活動と連携の舞台となった「火の国会議」を中心に、被災地に集まった「市民の力」を追う。(小多崇)

RECOMMEND

あなたにおすすめ
Recommend by Aritsugi Lab.

KUMANICHI レコメンドについて

「KUMANICHI レコメンド」は、熊本大学大学院の有次正義教授の研究室(以下、熊大有次研)が研究・開発中の記事推薦システムです。単語の類似性だけでなく、文脈の言葉の使われ方などから、より人間の思考に近いメカニズムのシステムを目指しています。

熊本日日新聞社はシステムの検証の場として熊日電子版を提供しています。本システムは研究中のため、関係のない記事が掲出されこともあります。あらかじめご了承ください。リンク先はすべて熊日電子版内のコンテンツです。

本システムは「匿名加工情報」を活用して開発されており、あなたの興味・関心を推測してコンテンツを提示しています。匿名加工情報は、氏名や住所などを削除し、ご本人が特定されないよう法令で定める基準に従い加工した情報です。詳しくは 「匿名加工情報の公表について」のページ をご覧ください。

閉じる
注目コンテンツ
熊本地震