【連鎖の衝撃 行政編⑩】 東日本基準「創造的復興」へ
![「くまもと復旧・復興有識者会議」の初会合であいさつする蒲島郁夫知事。右端は座長の五百旗頭真・県立大理事長=5月10日、県庁](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160510KYD000309001_00.jpg?itok=EjZuGCdG)
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熊本地震発生から1週間が過ぎた4月22日。蒲島郁夫知事が防災服姿で記者会見に臨んだ。(1)被災者の痛みを最小化する(2)創造的復興を目指す(3)復旧復興を熊本のさらなる発展につなげる-と、自ら「3原則」と呼ぶ震災対応方針を示し、「県民と難局を乗り越える」と力を込めた。
知事が災害対応で、この3原則を掲げたのは、2012年の九州北部豪雨災害以来だ。
豪雨災害後、3原則に基づき、損壊した阿蘇市の国道57号滝室坂の代替道路としてトンネル案を提案。国は13年、高規格の中九州横断道路の一部区間に位置付けて事業化した。
仮設住宅や交流施設の建設では、快適性に加え、再利用を見越してプレハブではなく木造にこだわった。仮設住宅の入居期間が終わった後、基礎工事をして、阿蘇市管理の住宅や集会所などとして生まれ変わった。
3原則の核になる「創造的復興」の源流は、11年の東日本大震災にさかのぼる。コミュニティーを重視した地域再生、高台や内陸への住宅移転、復興特区による地場産業再建…。元通りにする「復旧」にとどまらず、地域の将来を考えた取り組みを、当初5年間で26兆円もの政府復興予算が支えた。
政府の東日本大震災復興構想会議で議長を務めた政治学者の五百旗頭[いおきべ]真・県立大理事長は、東日本大震災並みの手厚い復興支援を「社会が築いた一般基準として定着させるべきだ」と強調する。
1995年の阪神大震災の被災者でもある五百旗頭氏には、苦い記憶がある。「当時の政府の対応は公共部門の復旧中心。被災前より良くする復興に国費を使うことには消極的だった」。その後、東日本大震災までいくつも災害を重ね、個々の生活再建があってこそ全体の復興があるという認識が少しずつ政府や社会に広がっていったと振り返る。
「熊本が大変です。力を貸してほしい」。蒲島知事は、東京大教授時代からの人脈を駆使。著名な5人の学者を集め、5月10、11日に「くまもと復旧・復興有識者会議」を開いた。このうち五百旗頭氏ら3人は復興構想会議の中核メンバーで、県への緊急提言を2日間でまとめ上げた。
提言は、復興構想会議が目指した創造的復興の考え方を踏襲し、「東日本大震災で到達した国の復興基準を切り下げることなく、国、地方、国民一体となって復旧復興に取り組むこと」を求めた。
提言を受けて蒲島知事は「わが国の英知が結集された。東日本大震災より被害が小さいから国の支援も小さくていい、とは書かれていない」と強調した。
県が政府に提出した392項目に及ぶ要望にも、熊本と隣県を結ぶ幹線道路網の整備促進など、「復旧」の水準を超えた項目が多数含まれた。県企画振興部の島崎征夫部長は「いずれも熊本地震で重要性がさらに増し、熊本の復興や発展に役立つ」と説明する。
ただ、東日本大震災復興構想会議は当時、政府への提言の中で「財源の議論がなければ、復興は語れない」と指摘した。膨大な額になる復旧復興費用の財源をどう賄うのか。県や被災市町村は不安が消えない。(蔵原博康)
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