【連鎖の衝撃 行政編⑨】 自治体支援、延べ4万人以上

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「これがあるので本当に助かっている」。熊本市の井上隆復興部長は、何枚も付箋が貼られた分厚い冊子「仙台市震災記録誌」を大事そうにめくった。
東日本大震災で被災した仙台市が被災後1年間の活動を収めた同誌は、熊本地震の発生直後に同市から約80冊が贈られた。今や熊本市職員の“バイブル”となっている。
仙台市は本震翌日の4月17日から熊本市へ応援職員を派遣した。東日本大震災で救援物資の配送を担った同市防災環境都市推進室の加藤博之課長もその一人。同月20日から5日間、熊本市の災害対策本部に詰め、救援物資の受け渡しなど初動対応の助言に当たった。
折しも、救援物資が集積拠点「うまかな・よかなスタジアム」(熊本市東区)に山積みされたまま、被災者に届かないことが問題となっていた。加藤課長は「被災者に直送する仕組みが必要だ」とアドバイス。区役所を経由していた救援物資を、直接避難所に届けるように変更させた。
被災者支援と復興事業に同時に当たる「復興部」の創設や、避難所生活の環境改善を目的とする「拠点避難所」の開設も仙台市に倣った。熊本市の古庄修治政策局長は「われわれでは思い至らない先々の課題を示してもらった」と感謝する。
政令指定都市の市長会は2013年12月に「大規模災害時の行動計画」を策定し、熊本地震で初適用。仙台市による熊本市への迅速な支援はこの行動計画に沿ったものだった。
震度7の地震が2度も襲った未曽有の震災で、県内の多くの自治体が行政機能を損なった。避難所運営や復旧に職員を投入せざるを得ない自治体を支援するため、県と14市町村には5月末時点で、仙台市をはじめ全国から延べ4万人を超える行政職員が派遣された。
宮城県も4月25日、民間賃貸住宅を自治体が借り上げる「みなし仮設住宅」の事務作業を支援するため、熊本県に職員3人を派遣した。「熊本県から何度も電話で問い合わせがあり、直接支援に入った方がいいと判断した」(宮城県保健福祉総務課)。
支援自治体の偏りやミスマッチを防ぐための工夫も見られる。九州地方知事会は熊本市以外の自治体を受け持ち、益城町を福岡県、南阿蘇村を大分県といった具合に担当を割り振る「カウンターパート方式」を採用。被災自治体の細かなニーズに対応している。
西原村を受け持つ佐賀県は、県内の市町職員も含め最大60人態勢で支援。派遣チームのリーダーを務めた同県広報広聴課の光武香織課長は、避難所の運営や建物の被害調査など多方面に及ぶ業務で村側との調整に当たった。
熊本行きを志願したという合志市出身の光武課長。「役場にとって何が必要か予測しながら活動した」と、5月30日まで8日間の派遣を振り返った。
自治体間の支援について、兵庫県立大防災教育センターの室崎益輝センター長(防災計画学)は「多くの自治体が支援に動いたことは評価できる」とする。ただ、「罹災[りさい]証明書の発行や仮設住宅の建設が遅れ、車中泊は実態すら把握されていない。過去の経験をもっと生かすすべはなかったのか、検証する必要がある」と指摘している。(田川里美、高橋俊啓)
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