【連鎖の衝撃 行政編⑪】 復興財源「特別立法で担保を」
「自治体が安心して復旧復興に取り組むには、国による財政支援の明確な担保と長期的な支援が必要だ」
5月23日午後2時半、県庁の知事応接室。蒲島郁夫知事は、熊本地震の被災地視察に訪れた衆参両院の災害対策特別委員会メンバーにこう訴え、政府に求めている財政支援の特別立法の実現に協力を求めた。
その2時間後、今度は蒲島知事が県町村会から同じ要望を受ける番になった。会長の荒木泰臣嘉島町長は被災地を代表して「財政基盤が脆弱[ぜいじゃく]な町村に特別立法は絶対必要。この旗だけは下ろせない」と県に決意を迫った。
内閣府は、県内の被害額を最大3兆8千億円、大分県を含めると最大4兆6千億円と試算した。政府は地震対応で総額7780億円を盛り込んだ大型補正予算を早期成立させたほか、激甚災害指定やインフラ復旧事業代行などさまざまな支援策を矢継ぎ早に打ち出した。ただ、「膨大な復旧復興需要で財政が破綻しかねない」との被災自治体の懸念は払拭[ふっしょく]しきれていない。
県や市町村が念頭に置くのは、2011年の東日本大震災での支援の仕組みだ。
激甚災害の指定で、復旧事業への国庫補助率がかさ上げされた上に、政府は発生2カ月後に東日本大震災財特法を制定。補助率を激甚レベルからさらに引き上げ、対象事業も拡大して被災自治体の負担を大幅に軽減した。
それでも残る地方負担分について、政府は「交付税の加算等で確実に復興財源の手当てを行う」との基本方針を打ち出した。これを受けた関係法改正によって、通常の交付税とは別枠の震災復興特別交付税が設けられ、被災自治体の負担分は借金(起債)なしで全額カバーされた。
宮城県の村井嘉浩知事は「8カ月かかって国の特別な財政支援の枠組みが決まり、ようやく必要な事業が迷いなくできるようになった。それまでは不安で東京へ何度も要請に赴いた」と振り返る。
一方、1995年の阪神大震災では、政府の財政支援は限定的だった。兵庫県の中山貴洋財政課長は「年間の予算規模が2兆円の兵庫県が、震災復興分だけで1兆3千億円の借金をした。行財政改革で一時より改善したが、今も財政運営は厳しい」という。
蒲島知事は5月9日、安倍晋三首相や関係省庁に特別立法を含む地震関連の要望書を提出した。首相との面会を終えた知事は「最大限のことをすると言われたが、立法措置には返答がなかった」と言葉少なだった。
県は地震対応で相次ぎ補正予算を編成。6月定例県議会に提案する16年度一般会計の総額は、過去最高の1兆34億円に上った。財政調整用4基金は初めて底をつき、それでも不足する財源は、まだ歳入の見通しが立っていない特別交付税を仮に充てた。
正木祐輔財政課長は「非常事態だが、必要な復旧復興事業を止めるわけにはいかない」と危機感をあらわにする。
関西学院大災害復興制度研究所の野呂雅之教授は「復興の概念はまだ確立していないが、東日本大震災を契機にさまざまな法律や制度が整備された。政策も財源の手当ても、東日本と同等の対応が実現されるべきだ」と指摘する。(蔵原博康)=「行政編」おわり
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