【連鎖の衝撃 行政編⑤】 広域防災拠点、足元に油断?
![熊本空港や県民総合運動公園、日赤県支部など九州広域防災拠点構想の主要施設が集まる熊本市東区と益城町。青いビニールシートを被せた屋根が広がる=5月4日午後(横井誠)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160504TAN000171000_03.jpg?itok=0gKwFNlb)
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「熊本地域では過去120年余り、大規模地震の発生はありません」
熊本地震の発生前、県は企業誘致パンフレットで地震発生リスクの低さをそうアピールしていた。
損害保険会社でつくる損害保険料率算出機構(東京)による分類でも、地震の危険度に応じた都道府県区分で、熊本は最も危険度が低いグループに属していた。その分、年間の地震保険料も割安で、企業誘致において「雷と地震災害の少なさは熊本の売りだった」(県企業立地課)という。
県は2014年1月、静岡県の駿河湾から九州東方沖まで続く海底盆地(トラフ)を震源とする南海トラフ巨大地震の発生などを想定し、「九州を支える広域防災拠点構想」を打ち上げた。地震の被害は小さいという認識が根底にあった。
同構想は、熊本県が九州の中心にあるという地理的特性があり、南海トラフ地震による被害も軽いと予測。この想定を基に巨大地震発生時の支援拠点として、被害想定が大きい大分や宮崎、鹿児島県などへの救命、救援物資支援などの中心的役割を果たすとした。
構想はまた、益城町の熊本空港やグランメッセ熊本などを救援物資の集積拠点と位置付け。九州の他県に比べ人口比での病院や医師の多さ、九州を統括する陸上自衛隊西部方面総監部(熊本市)などがある「優位性」もアピールする。
同構想が決め手となり、内閣府は15年4月、他県との競争となっていた南海トラフ地震に伴う九州の現地対策本部を熊本市西区の熊本地方合同庁舎に置くことを決めた。
県には、同構想をてこに熊本空港の機能強化や九州を横断する道路整備の促進を国に促す狙いもあった。しかし、熊本地震で熊本空港ビルやグランメッセ熊本が被災して機能を喪失。田嶋徹副知事は「九州を助けるはずが、助けられる側になってしまった」と唇をかんだ。「大規模地震と無縁の土地柄」とうたった県の企業誘致ホームページも、本震発生後の4月20日に県が削除した。
筑波大の糸井川栄一教授(都市防災)は「県の地域防災計画では、M7・9の地震を想定していたにもかかわらず、公共側が十分に機能しない状況も散見された。『現実には発生しない』という油断があったのではないか」と指摘する。
その上で、「広域防災拠点構想は、沿岸自治体への支援構想として確かに優れている。ただ、それも重要だが、まずは今回の経験から足元の防災計画を見直すことこそ大切だ」と話す。
政府の現地災害対策本部(県庁)に詰めて陣頭指揮に当たった元副知事の兵谷芳康・内閣官房内閣審議官は「熊本地震の経験、対応はかえって広域防災拠点としての役割に重みを与えた。実際、熊本空港の滑走路や熊本地方合同庁舎に被害はほとんどなかった。変更は考えられない」と言い切った。(太路秀紀、並松昭光)
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