【連鎖の衝撃 行政編④】 想定外への備え、意識薄く
益城町で家屋倒壊、生き埋め、阿蘇大橋が崩落…。本震発生直後の16日未明、県庁新館10階にある防災センターは、現場から次々にもたらされる被災情報で極度の緊迫感に包まれた。「落ち着いて対応しろ」。大きな余震のたびに緊急地震速報の警戒音が鳴り響く。浮足立つ職員を落ち着かせるように、幹部が何度も呼び掛けた。
布田川・日奈久断層帯で起きる連動型地震の規模はマグニチュード(M)7・9。県内の最大震度は7-。県が2015年5月にまとめた最新の地域防災計画は「県内で起こり得る最大クラスの規模」をこう推計した。
しかし、現実は想定を大きく上回った。阪神大震災クラスの震度7が28時間以内に2回、震度6弱以上が36時間余りに7回も集中。いずれも観測史上初めての事態だった。
地域防災計画は自治体の災害対策の基本。被害予測を基にあらかじめ応急対策や復旧方針を定めている。室崎益輝神戸大名誉教授(防災計画)は「被害が想定を超えることは即、行政対応に不足が生じることを意味する」と解説する。
18万人を超える住民が避難所に押し寄せ、余震を恐れる住民が車中泊する車が駐車場にあふれた。水道やガス、電気の被害も想定を超え、避難所などからの被災者の帰宅を遅らせた。
蒲島郁夫知事ら自治体トップは「想定外の事態」と口をそろえるが、地震への意識の薄さや行政の不作為ともいえる準備不足も指摘されている。使用不能となった行政庁舎はその象徴の一つだ。
県地域防災計画は市町村庁舎について、災害対応の拠点施設として耐震・耐火性の確保に努めるよう求めている。しかし、耐震基準を満たしていなかった宇土市、八代市、大津町は損壊。肝心の有事に機能を果たせなかった。
内閣府は10年4月、庁舎などの被災を想定し、代替庁舎の確保や行政データの予備保管などを定めた「業務継続計画(BCP)」の策定を要請。消防庁のまとめでは15年末現在、県内で策定済みの自治体は、県と熊本市、八代市など17市町村にとどまった。
未策定だった宇土市は2月に庁舎建て替えを決めたばかりで、BCPは本年度策定の予定。防災計画には代替庁舎も盛り込んでいなかった。担当者は「学校などの耐震化を優先し間に合わなかった。まさか2度目にもっと強い地震が起きるなんて…」と悔いた。
応急仮設住宅の建設でも自治体の準備不足が露呈した。市町村は地域防災計画で事前に用地を選定することになっているが、選定していた場所が被災して使えなかったケースや、事前に用地を選んでいなかったところもあり、地震発生後、候補地選定から作業を始めた自治体もあった。
室崎名誉教授は「短期間に地震が連続する例は珍しくなく、安易に想定外と言うべきではない。『想定外への備え』が叫ばれてきた過去の震災の教訓を生かし切れていない」と手厳しい。
これに対し、県危機管理防災課の沼川敦彦課長は「熊本の災害と言えば風水害というのが一般的な認識。地震への備えの意識が高まっていたとは言い難い」と認めた。(並松昭光)
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