【連鎖の衝撃 行政編③】 参院選控え、失敗許されず
マグニチュード(M)6・5の前震発生から約10時間が過ぎた15日午前8時すぎ。県庁防災センターのモニターに、安倍晋三首相ら政府の非常災害対策本部会議のメンバーが映し出された。
官邸と県庁をつないだテレビ会議で、蒲島郁夫知事が「時間の経過に伴って被害の拡大が懸念される」と報告すると、安倍首相は「政府として住民の安全を第一に救助に総力を挙げる」と決意を伝えた。
その言葉を裏付けるかのように、安倍首相は早速、翌日の被災地入りを決めた。16日未明の「本震」発生で同日の来熊は断念したが、その後は官邸主導で被災地への救援を強力に進め、閣僚が相次いで被災地入りした。
安倍首相自身も4月23、29日の2度熊本入り。益城町や南阿蘇村、西原村などの避難所を回り、避難者を見舞った。米軍からの新型輸送機MV22オスプレイによる支援物資輸送も受け入れ、日米同盟の強固な絆もアピールした。
「前のめり」とも映る官邸の積極的な姿勢は、救援物資以外の面でも現れた。緑川水系など国が管理する河川の堤防では172カ所でひび割れが見つかったが、国土交通省は24時間態勢の突貫工事で5月9日までに応急処置を仕上げた。
県建設業協会の橋口光徳会長は「国の熱の入れようには驚いた。工事を受けるこちら側が『そこまでは無理だ』と思うほどだった」と漏らした。
さらに2011年の東日本大震災後に制定された大規模災害復興法も初適用。地震で被害を受けた道路や河川など県や市町村の復旧事業を国が代行できる「非常災害」に指定した。これを受けて国土交通省は早速、県道の俵山バイパスなどの復旧工事を代行することを決めた。
総額7780億円の16年度補正予算も編成し、野党の協力も得て早期成立を図った。
矢継ぎ早な政府の支援攻勢の背景には、約3カ月後に迫っていた夏の参院選を控え、「政権として災害対応につまずくことは許されない」(谷垣禎一自民党幹事長)との事情もあった。
熊本大の鈴木桂樹教授(政治学)は「参院選を前に、政権としてはアピールよりも『失敗できない』という意識が強かったはずだ」と見透かす。
そうした安倍政権の姿勢に坂本正・元熊本学園大学長は「対応が早かったのは評価できるが、地元の頭越しにやって食い違いが出た局面もあった」と指摘する。
4月15日午前、蒲島知事との初顔合わせの場で、政府から派遣された松本文明内閣府副大臣は「官邸から(屋外での)青空避難の解消を強く指示されている」と県側に詰め寄った。その後も松本氏は「官邸が、官邸が」を連発。県幹部は「建物の倒壊が怖いから屋外に避難しているのに、現場の実情が分かっていない」と憤った。
松本氏は、政府と県が対応を話し合うテレビ会議を通じ、「みんな食べるものがない。これでは戦うことができない」と、自身らへの食事を差し入れるよう要請。初動からわずか6日間で政府の現地対策本部のトップを交代した。(太路秀紀)
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