【連鎖の衝撃 行政編②】 支援物資集中、さばき切れず
「政府が送った物資は来ているはずだ。なぜ届いていない避難所があるんだ!」
マグニチュード(M)7・3の「本震」から2日後の4月18日午前。政府が派遣した官僚と県幹部ら約80人が顔をそろえた合同会議で、松本文明内閣府副大臣はいら立ちを隠さなかった。松本氏はM6・5の「前震」を受け、15日から政府現地対策本部トップとして県庁に詰めていた。
本震後の16日午後、菅義偉官房長官は、被災自治体の要請を待たずに水や食料、毛布や簡易トイレなどの物資を西日本の各地で調達し、被災地に送り込む「プッシュ型」支援を打ち出した。安倍晋三首相もコンビニやスーパーに対し、おにぎりやパンなどの食料品を優先的に被災地に流通させるよう指示した。
本震発生から2日後の18日。そうした官邸の意向を反映したように熊本市東区の「うまかな・よかなスタジアム」の周囲には、県外ナンバーの大型トラックがずらりと並んだ。スタジアムは熊本市内の避難所に送り出す救援物資の集積拠点。政府の「プッシュ型」支援の物資に加え、全国の自治体や民間からの支援物資も集中した。
それから数日、受け入れと配送を担う現場は人手不足でパンク寸前。荷降ろしを待つ大型トラックは一時100台近く並んだ。
救援物資は量的には十分なはずだった。しかし、受け入れ側の「想定不足」から避難所では初期段階で物資不足が生じた。熊本市地域政策課の甲斐嗣敏課長は「集積拠点を複数考えておくなどの備えが必要だった。大規模災害を考えていなかった」と唇をかむ。
県内の避難者数は、ピーク時の17日朝、県民の10%超の18万4千人に達した。熊本市だけでも10万8千人。同市は阪神大震災を基に市民の約5%の3万6500人が避難すると想定。1日3食の2日分約22万食を備蓄していたが、想定の3倍近い避難者に備蓄分は早くも17日から不足気味になった。
物資の集積拠点の被災と緊急輸送道路網の寸断も誤算だった。県は南海トラフ巨大地震を想定し、益城町のグランメッセ熊本を集積拠点に計画していたが、2度の激震で天井部分が落ちる恐れが出て、スペースの4分の3が使えなくなった。
指定していた緊急輸送道路も、九州自動車道や国道57号など24路線47カ所で陥没などの被害が発生し、通行止め。他の幹線道路の交通渋滞も激しく、警察車両の先導や自衛隊による輸送に頼らざるを得なかった。
「そもそもプッシュ型は特例で、想定していなかった」と支援物資の受け入れ調整を担う県健康福祉政策課。県や市町村は、備蓄や地域の食品メーカーなどからの物資調達を基本に据えていたため、集積拠点に大量の人員を動員して物資をさばく発想すらなかった。
京都大防災研究所の牧紀男教授(都市防災計画)は「集積拠点から避難所に物資が届かなかったのは東日本大震災の教訓。それが生かされなかったのは問題だ」と指摘。「集積拠点から避難所への物資配送は、プロの運送業者との連携が不可欠。業者と共同で計画しておく必要がある」と自治体側の改善を促した。(太路秀紀)
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