【連鎖の衝撃 行政編①】 気象庁、前例なき事態に動揺
![後に「前震」と呼ぶことになる4月14日夜の熊本地震の発生について記者会見する気象庁の青木元・地震津波監視課長=4月14日午後11時50分ごろ、気象庁(岡恭子)](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-04/IP160516TAN000075000_04_0.jpg?itok=5O7Qb_33)
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「何でまた来るとーっ」。益城町寺迫の軸丸雅子さん(72)は、気象庁が後に「本震」と呼ぶ4月16日午前1時25分の激しい揺れに驚きを隠せなかった。
14日夜、同町で震度7を観測した「前震」以降、同庁は「今後1週間程度は余震に注意してほしい」と呼び掛けた。15日午後には、「ところによって震度6弱以上の揺れとなる余震が発生する可能性は、4月15日16時から3日間で20%、震度5強以上となる可能性は40%」とした。
ただ、同庁が「余震」と繰り返していたため、「もっと大きい地震が起きるなんて考えもしなかった」と軸丸さんは振り返る。
自身は車中泊していたが、近くに住む1人暮らしの兄、坂田弘史さん(83)は「大丈夫だろう」と家に戻っていた。足の不自由な坂田さんの平屋の自宅は天井が落ち、近隣住民の手助けで何とか脱出。九死に一生を得た。
震度7に2度見舞われた益城町。16日の本震で亡くなった12人のうち、少なくとも6人が14日の前震後、いったん避難し、家に戻った人だった。
16日午後、気象庁。「最初の地震より大きな地震が起きた例はないのか」と殺気立つ報道陣に問われ、橋本徹夫地震予知情報課長は「過去の経験ではそうだ」と声を絞り出した。
同庁が余震発生確率の算出に使うマニュアル「余震の確率評価手法について」は、マグニチュード(M)6・4以上の地震を「本震とみなす」と規定。確かに内陸型地震で、この規模の地震に襲われた後、これを上回る余震があった例は同庁の観測史上ない。
橋本課長は「経験則を外れている。今までより複雑なことが起きているのかもしれない」と前例のない事態に動揺を隠せなかった。
震度7は、1948年の福井地震を契機に導入された。95年の阪神大震災で初観測。一連の地震で立て続けに2回観測されたのは初めてだった。強い地震に小規模な余震が誘発され、徐々に終息していくという“常識”を覆した。
気象庁は「政府の地震調査委員会が1998年にまとめたマニュアルに基づき、余震発生確率を発表した」と釈明する。
地震調査委の委員長を務める東京大地震予知研究センターの平田直教授は「被災者が家に戻ってしまったということはメッセージの出し方が悪かった」と気象庁のアナウンスを問題視する。
平田教授は「震度6弱以上の余震の発生確率が3日間で20%というのは、科学者からすれば、強い余震が確実に起きるということだ」と強調。その一方、「1回目より大きい地震が起きる可能性は今の地震学では明言できない」と限界も認め、余震発生確率の算出法を見直す方針も示した。
一方、気象庁はどうか。「M7クラスの地震では1カ月程度で活動が収まることはない。引き続き注意してほしい」。青木元[げん]・地震津波監視課長は4月16日以降、「余震」という言葉や活動終息の見通しを口にすることはなくなった。(山口尚久、内田裕之)
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