【連鎖の衝撃 生命編⑦】体不自由な祖母と同居の父 現実的でなかった避難
「最初の地震では両親の家も被害は少なく、避難は必要ないと思った。まさか、その後、あんな揺れが襲うなんて…」
益城町平田の内村元美さん(55)は、悪夢の夜を静かに振り返る。築13年になる自宅のすぐ隣には、両親が住んでいた家が無残な姿で残されていた。
◇ ◇
平田地区は、山地と木山川に挟まれ、4月16日未明の本震で多くの古い家屋が倒壊した。同町で最多の3人が犠牲となり、元美さんの父宗春さん(83)もその1人となった。
宗春さんは、妻ミツエさん(79)と母魂児[たまこ]さん(102)との3人暮らし。木造2階建ての家は、築100年を超えていた。
14日夜の前震発生直後、元美さんは両親らの無事を確認。翌日、自宅2階から集落を見渡すと、倒壊した家屋は見当たらなかった。
「避難所は、大きな被害を受けた人たちが行く場所で、被害のない私たちが行けば迷惑になると思っていました」。元美さんは、その日の心境を語る。
「このまま地震は収まるだろう」。そう思いながら眠りについた矢先、強烈な揺れが襲った。突き上げるような衝撃、経験したことのない激しく、長い横揺れだった。
元美さんは外に飛び出し、実家を確認すると、1階部分がつぶれていた。両親は1階の奥の部屋で、魂児さんも1階の増築した部屋で寝ていた。みるみる血の気が引いていく。近づくと、「おーい…、おーい…」という父の声が聞こえた。
慌てて119番通報するが、何度掛けてもつながらない。ようやくつながると、「益城町は出払っていて、熊本東から寄こします」との返答が返ってきた。しかし、救急車が来る気配はない。同町ではあちこちの道路で亀裂や隆起が生じ、救助活動を阻んでいた。
元美さんの夫(61)はミニバイクで救助を求めに走った。消防団員を見つけ、ミツエさんと魂児さんは救出されたが、崩落した天井が直撃していた宗春さんの救助は困難だった。夫は再び救助隊を探し回り、兵庫県警の警官らを発見。間もなく宗春さんは運び出されたが、すでに息はなかった。
宗春さんの隣で寝ていたミツエさん。救出後、「申し訳なか」と自分を責め続けた。それでも、「少しずつ落ち着きつつあるような気がする」と元美さん。「最近は庭に出て、父が大切に育てていた花の世話をするようになりました」
◇ ◇
前震が発生した14日夜。町の避難所は住民であふれ、倒壊の恐れのある施設では多くの住民が寒さに耐え、屋外で一夜を過ごした。寝たきりに近い魂児さんを抱えた内村さん一家にとって、避難は現実的ではなかった。
「避難所に行っていれば父も助かったかもしれませんが、その選択はなかったんです」。気丈に語っていた元美さんの目が、みるみる赤くなった。(浪床敬子)
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