【連鎖の衝撃 生命編⑥】前震後 自宅に残った父 予期せぬ本震 命落とす
用水路では藻が揺らめき、小魚がせわしなく泳ぐ。益城町赤井地区は、町内でも豊かな湧水で知られる。
「この辺は水が良かけん、父が作るコメもうまかった」。あるじを失い、変わり果てた実家を前に、城本千秋さん(68)の長男英雄さん(39)は空を仰いだ。
◇ ◇
4月16日午前1時25分。本震の揺れが襲った時、英雄さんは妻と長男(5)に加え、実家から避難していた母ぬい子さん(62)と自宅で就寝中だった。
「お父さんは大丈夫だろか」。強い揺れが収まると、ぬい子さんが外に飛び出した。歩いて約5分の実家に、千秋さんが残っていたのだ。
14日の前震では、自宅と実家に大きな被害はなかった。町消防団員の英雄さんはすぐに地元住民の安否確認に走り回り、集落に沿うように通る国道の交通整理に追われた。
15日午後9時ごろにようやくひと息つき、実家に顔を出した。前日、車中泊した両親を自宅へ来るよう誘うためだった。
だが、「家が心配だけん」と千秋さんは断った。英雄さんは「車で寝てくれよ」と言い残し、母だけを連れて帰った。
しばらくして、電気が戻った。英雄さんたちも自宅前の車で過ごしていたが、ほっとして室内に入った。
「たぶん、父も同じだったと思う」
◇ ◇
前震に耐えた、築約90年の木造2階建ての実家だったが、本震では1階が完全につぶれていた。英雄さんはスコップを手に父に声をかけ続けるが、反応はない。地区の消防団員と一緒に柱や天井をかき分けていく。なかなか119番はつながらず、友人が町総合体育館で炊き出しをしていた自衛隊に救助を求め、隊員らが応援に駆け付けた。
すっかり夜が明けた16日午前8時ごろ、千秋さんは、心肺停止の状態でがれきの中から運び出された。寝室の隣にある部屋に、ベッドごと吹き飛ばされていた。
益城町では、16日の本震で命を落とした12人のうち、少なくとも半数がいったん避難しながら帰宅した人だった。気象庁は14日の前震直後、「今後1週間、震度6弱程度の余震が発生する恐れがある」と余震への注意を呼び掛けたが、「(14日より)大きな地震は来ないだろう」と受け止めた人は少なくなかった。千秋さんも、そう思った一人だった。
◇ ◇
5月初め。小雨の中、自宅裏でショベルカーを操る英雄さんの姿があった。父が愛用したトラクターの保管場所をつくるためだ。ふるさとが好きで、この地に戻って1年。
「ここで子育てがしたかった。周りの仲間と一緒に、とにかく今は笑顔でいようって約束してます」
千秋さんが亡くなった翌日の17日には消防団活動に戻り、地域の警戒に当たる。運送などを手掛ける仕事にも復帰した。まだぎこちないけれど、心の底から笑える日が来ると信じている。(内田裕之)
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