【連鎖の衝撃 生命編⑤】消防団員 決死の救助 地域を守った「住民共助」
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4月14日午後10時前。車のライトが照らした光景は、自宅を出た時と一変していた。
その夜、益城町島田の大工守口育男さん(35)は、仕事で宇城市に向かっていた途中で前震に遭い、慌てて帰宅した。倒壊したブロックや家屋、波打つ道路…。家族の無事を確認して向かいの家に目を移すと、木造2階建ての一軒家が倒壊しているのが目に入った。
「ばあちゃんの家が倒れとる」。1人暮らしの鋤野[すきの]ナヲさん(87)の家だった。
◇ ◇
すぐに、守口さんら櫛島[くしじま]地区の消防団員数人が集まった。約50戸が暮らす同地区は近所付き合いも深く、みんなナヲさんを知っていた。
「ばあちゃん」。何度も呼ぶが、反応はない。「ガチャン、ガチャン」。余震のたびに物が壊れ、救出作業を阻んだ。
熊本市から駆け付けたナヲさんの長女(63)と次女(60)が「おかあさーん」と叫ぶと、暗闇の中から「はーい」と弱々しい声が返ってきた。
「おかあさんが生きてる」。倒壊した住宅に入り込まんばかりの姉妹を、団員らは羽交い締めにして止めた。「自分たちの命が危なかぞ」。母屋の隣にある小屋は余震で崩壊していた。
その時だった。「もう今しか助けられん」。同じ地元消防団員の鋤野和明さん(44)は腹をくくった。長袖Tシャツにジーンズ姿。魚釣り用のヘッドライトを付けたヘルメットが唯一の装備だった。
つぶれた玄関を見ると、かろうじて1人が通れそうな空間があり、身をかがめてくぐった。あちこちで天井や梁[はり]が落ち、床との間にできた50センチほどの隙間をはって進んだ。
「死んだら妻に怒られるかな」。一瞬、そんな思いが頭をよぎった。それでも奥に進んだ。後に続いた守口さんの懐中電灯の明かりを頼りに居間へたどり着くと、こたつであおむけで倒れていたナヲさんを発見した。
頭上の天井が迫る中、ナヲさんに靴をはかせて玄関まで誘導し、他の団員がこじあけた隙間から外に押し出した。ナヲさんは奇跡的に無傷だった。わずか10分足らずの作業だったが、何時間にも感じられた。団員らは「大きい余震が来ないことだけを祈っていた」と振り返る。
◇ ◇
櫛島地区は、その後の本震により、約7割の家屋が全半壊した。守口さんや鋤野さんら消防団員も大きな被害を受けつつ、住民と共に助け合いながら、日々の活動に当たっている。
地震直後から現地入りし、被害状況を調査している福岡大工学部の古賀一八教授は、そんな住民の強いつながりに注目する。
「これほどの被害を受けながら、益城では住民の連携で救出されたケースが目立つ。復興過程でこのコミュニティーを壊さないことが今後の力になると思う」(内田裕之、浪床敬子)
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