出自の開示、運用見えず<ゆりかご15年>連載 第6部⑦
![ベビークラッペについて説明するベルク看護師長=2022年11月、ドイツ・ハーナウ](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-02/IP230202TAN000131000.jpg?h=76f0205b&itok=cyScGIbs)
![ドイツの出自証明書。上の証明書に母親の本名を書き、下の封筒には仮名を記す。手書きで「見本」と書いてある](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-02/IP230202TAN000051000.jpg?h=661819a1&itok=BM6UGxVt)
「名乗る必要はありません。あなたは仮名で話すことができます。あなたの質問に答え、次のステップに導きたいと思っています」。フランクフルト(ドイツ)の西に位置するウィースバーデンにある4カ所の妊娠葛藤相談所が、内密出産を望む女性たちに渡す書類にはこう書いてある。
女性たちは、本名と生年月日、住所を記した出自証明書にサインし、封をして残す。表には、対応した妊娠葛藤相談所やドイツ家族省が女性の仮名、子どもの名前や生年月日などを記入し、封筒は同省が保管。子どもが16歳になれば、開示を求めることができる。
ただ、一律に開示するかどうかは、現時点では決まっていない。封筒の表には、母親が開示に同意しているかどうかを書き込む欄がある。母親は開示しない選択もできる。内密出産制度が導入されたのは2014年。生まれた800人以上の子どもは、まだ誰も開示できる年齢に達していない。
ウィースバーデンの妊娠葛藤相談所「ドーヌム・ビテ」のメラーさんは、出自を知りたい子どもが連絡を取ってくることを予想しているが、「われわれ自身も分からないことが多い」と明かす。「養子縁組を調整する機関が主に対応するのではないか。出自を開示するかどうかも、家庭裁判所などが判断するのだろう」
同国の内密出産に詳しい千葉経済大短期大学部の柏木恭典教授は「どれほどの開示請求があるか分からず、母子の意見が対立するかもしれない部分はある。しかしそれを『法の不備』と捉えず、目の前にいる困難を抱える母子を救うことを選んだ」と解説する。
2000年に民間団体が始めたベビークラッペ(赤ちゃんポスト)の取り組みも法的根拠はなく、賛否は分かれる。09年、ドイツ倫理審議会は「子どもの出自を知る権利が保障されていない」として廃止を勧告。その後、内密出産を法制化した。
フランクフルトの東、ハーナウにある病院「セントビンセント・クランケンハウス」。正面玄関の奥、少し目立たない場所にクラッペがある。21年間で24人の赤ちゃんが預けられ、2人が生みの親の元に返っていった。過去30年で匿名で5人ほどが出産し、内密出産の事例はない。
運営団体のヘレンブランドさんは「匿名出産もクラッペも、法は認めないだろう。ただ22年間、反対しないということは、認めていることと同じ」。ドイツ青少年局とも協力し合っているといい、「無法地帯ではない」と強調する。
同病院のベルク看護師長は、匿名性を守ることで「早い段階からの相談につなげ、ぴったり合った支援を示すことができる」と話す。クラッペや内密出産は、「子どもが寒空の下で亡くならないための、最後の受け皿」だと位置付けている。(「ゆりかご15年」取材班)
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