「断絶」の経験、社会で支援<ゆりかご15年>連載 第6部⑤
![パリ市の養子縁組機関を案内する職員。入り口には、新たな絆を結んだ家族の写真が飾られている=2022年11月](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2023-01/IP230130TAN000012000.jpg?itok=EBhsjGhP)
「自尊心が低く、繊細な子どもが多い」。匿名出産で生まれた子どもについて、パリ市の小児精神科医、コーエン医師はこう話す。「なぜ生みの親と私が一緒にいられなかったのか、という気持ちがそうさせる」
コーエン医師は、匿名出産の子どもと養子縁組した養親の支援に力を入れてきた。実母との別れという「断絶のトラウマ」を経験した赤ちゃんは、泣きやまなかったり、かんしゃくを起こしたりしがちだという。「自分たちがうまくできないから」と罪悪感を抱く養親もおり、「なるべく早く助けを求めること。原因が匿名出産なのか、別の問題なのか、専門家と考えることが大事」と助言する。
フランスでは心理士らと共に子育てなどの困り事の解決に当たるソーシャルワークが社会に浸透している。子どもや養親、匿名の母親へのサポートも同様だ。
匿名出産を選んだ母親から生まれ、養親の元で育ったシャルロットさん(29)は、10代と20代の時に心理士の元に通った。「匿名で生まれた経験は、やはり他の人と違う。自分の中で整理するために話す必要があった」。心理士のもとで紡いだ「自身の歴史」を、「私自身への自由のメッセージ」と表現する。
養親になるためには、公的養子縁組機関で研修などを受け、承認を得るまでに最短でも9カ月かかる。心理士やほかの家族との対話を通し、場面に応じた子どもへの対応などを学ぶ。パリ市では2021年、10人の赤ちゃんが匿名出産で生まれ、養子縁組された。養親になることを希望する人たちは462家族に上る。
生みの母親たちは、複雑な家庭や若年、望まない性行為など、多くの事情を抱えている。残される身元情報の範囲もさまざまだ。研修では、養親たちがその事実を受け止め、子どもたちを十分サポートできるか、ソーシャルワーカーや心理士と一緒に考えていく。養親宅に子どもが預けられ、裁判で縁組が成立するまでの6カ月間の支援期間が終わった後も、親同士の互助団体などさまざまな団体によるサポートがある。
フランスでは1996年、困難を抱える女性専用の相談窓口を各県に置くことを決定。それに先立つ92年から活動するパリ市の相談窓口「モイーズ」は、母親が赤ちゃんを自分で育てるか育てないかを決める際、本人の意向を最重視する。立ち上げ時から関わるエランジェさんは「女性たちがもっと話せる状況をつくるべきだ」と話す。
30年前に比べ、困窮妊婦への経済的支援などが整い、匿名出産の件数自体は減っているという。それでも、毎年500人が匿名出産を選んでいる。相談員たちは力を込める。「女性たちは子どもを見捨てるのではなく、安全に託す責任を果たしている。どんな決断でも、私たちが付き添う」(「ゆりかご15年」取材班)
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