匿名と知る権利、両立図る<ゆりかご15年>連載 第6部③
フランスの匿名出産では、実母の名前や生年月日などの個人情報と、目や髪の色、育てられない理由など、個人の特定につながらない情報を分けて扱う。特定につながらない情報については知ることができる仕組みとなっており、母親の匿名性と子どもの知る権利との両立を図る。
「匿名性を守ることで母親に支援情報を提供し、支える。そして情報を知りたい子どもも支える」。2002年に設立された出自情報のアクセスに関する国家諮問委員会「クナオプ」のモース代表は二つの目的があると語る。
匿名出産で生まれる子どもは年間約500人で、出自情報はクナオプが管理する。匿名出産を希望する女性が現れると、各県に2人いる担当者が24時間以内に病院などで面会。各種の支援制度を紹介し、最後まで匿名を望む場合は、子どもにとって情報を残すことの重要性を説明する。出産後2カ月間は匿名を撤回でき、匿名を望んだ母親の3割が自分で育てることを選ぶという。
母親は自分の情報について、二つのファイルを作る。一つは個人が特定されない情報で、仕事、遺伝性の病気があるかどうか、パートナーはどんな人か、匿名出産を選ぶ理由などを記す。99%の母親が応じ、子どもは成長段階に応じて閲覧を請求できる。
二つ目が開示に母親の同意が必要な、個人情報を含むファイルで、実名や生年月日、住所などを記入。子どもから閲覧の求めがあった時は、母親に同意するかどうか尋ねる。
クナオプ設立時に事務局長を務めた元最高裁判事のブシコさんは「可能な限り、両者の権利を尊重し、認められることが大事」と力を込める。「病院で産むことで母子の健康を守り、匿名を保障することで母親たちは安心して情報を残す」。こうした仕組みの背景について「子どもから閲覧要求があった時、母親は名前を明かせない時期かもしれない。だから考える時間を十分に与える」と話す。
クナオプ設立後の5年間で約5千件の問い合わせがあったが、多くは個人情報ではなく「自分が記憶している以前の歴史が知りたい」という内容だったという。28歳の男性は「自分が暴力で生まれたのか、愛のある関係の中で生まれたのか知りたい」と訴え、愛情のある関係の中で生まれたと知ると、「望んだことは全てそろった」と満足したという。
ブシコさんは「違う人生を歩んだ実親と子どもが、(新たに)関係性を構築することはあまりない」と明かし、「どういった状況で自分が生まれたのか、母親はなぜこのような決断をしたのか、子どもたちはそういったことに関心がある」と話す。
「子どもの命か、知る権利かという論争は対等ではなく、違う論争です」。身元を明かせない母親と、どう生まれたか知りたい子どもの両方の立場を守ることは不可能ではないと強調する。(「ゆりかご15年」取材班)
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