出自の開示ルールの整理を <ゆりかご15年>連載 第5部「知られず産みたい 『内密』の波紋」⑧
「出てきた書類は真っ黒」「実親の身元につながる情報の部分だけ切り取られている」-。自らの出自を知りたいと願う当事者が、こうした現実に直面することがある。
約2千件に上る養子縁組を手がけてきた日本国際社会事業団(東京)は、戦災孤児らを救済するために1952年に発足した団体が前身だ。全ての情報は事務所で永年保管しており、子ども本人やその家族の求めに応じて開示している。「ルーツ探し」のための相談窓口も設けており、別の機関での縁組も支援対象だ。
ただ、ソーシャルワーカーの榎本裕子さんによると、児童相談所(児相)や裁判所に開示を求めても、情報が黒塗りになって出てくることも。それでも、時代背景や母親の家族構成などを読み解き、出自を知ろうとする子どもを手助けしている。「少ない情報でも意味づけすることで、印象が変わることがある」と榎本さん。開示に伴う支援は、当事者らの知る権利に応えることにつながるとの思いがある。
内密出産のガイドライン(指針)で、国は「子どもの出自を知る権利の重要性」を明示したが、母親の身元情報の管理や子どもへの開示時期などは医療機関にほぼ丸投げの状態だ。
2014年に内密出産を制度化したドイツでは、子どもが16歳になった時点で実母の身元情報の開示を請求できる。県弁護士会・子どもの人権委員会の村田晃一弁護士は「ドイツではまだ子どもが開示を受けられる年齢になっておらず、どんな影響があるか分かっていない。開示が16歳では遅すぎるという意見もある」と指摘。運用が自治体や医療機関任せになっている日本の指針についても、「生まれた場所によって、開示できる情報や年齢がばらばらになる恐れがある」と懸念する。
親が育てられない子どもを匿名でも預かる慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」でも、出自を知る権利が課題となったままだ。
かつて、ゆりかごのケースを担当したことがある九州のある児相の所長は「当時は開示について十分な想定がなかった。将来、請求があった時に1件ずつ実母の承諾を取る必要があるが、承諾が得られないこともあり得る」と不安視する。子どもの知る権利は保障されるべきだとしつつも、個人情報保護条例や児相の開示基準によっては、黒塗りだらけになる可能性もあり、「開示ルールの整理が必要ではないか」と訴える。
一方、子どもが自身の出自を知るための「真実告知」についても、課題は山積している。子ども自身が開示請求できることや、内密出産で生まれたことなどを本人に伝えられる必要があるが、児童福祉の関係者は「内密出産は重すぎて、養親は告知できないのではないか」と心配する。
子どもの立場からの訴えも。特別養子縁組の養子当事者らでつくる「youth[ユース]の会」は、子どもの権利保障へ政策提言を考えている。メンバーのゆうさん(仮名、27)は「大人主導で仕組みをつくってしまうのではなく、子どもの立場から声を上げなければならない」と思いを語る。(「ゆりかご15年」取材班)
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