少ない情報 養育に支障も <ゆりかご15年>連載 第5部「知られず産みたい 『内密』の波紋」⑤

熊本日日新聞 2022年12月6日 07:38
慈愛園乳児ホームで、職員に抱っこされてあやされる赤ちゃん=熊本市中央区
慈愛園乳児ホームで、職員に抱っこされてあやされる赤ちゃん=熊本市中央区

 「内密出産」で子どもを産んだ母親の個人情報は、病院の一部の関係者にのみ明かされる。このため、生まれた子どもを養育することになる乳児院や里親に伝えられる情報は極めて少ない。

 県内に3カ所ある乳児院の一つ、慈愛園乳児ホーム(熊本市中央区)。新生児から2歳までの乳児を養育しており、潮谷佳男施設長は「どんな赤ちゃんでも受け入れる。断れないという暗黙の了解がある」と明かす。

 内密出産が始まって1年。慈恵病院(西区)から託された乳児が、「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に預けられた子どもなのか、内密出産で生まれた子どもなのかは、施設側には知らされていない。潮谷施設長は「(国による)システムが出来上がるまでの過渡期だから仕方ないと納得しているが、子どもの未来を考えたら不安だ」と表情を曇らせる。これまでも、児童相談所(児相)などに情報開示を求め続けており、少しずつ改善の動きが見え始めてきたという。

 母親に関する情報不足は、子どもの養育に支障が出ることも。「遺伝系の病気やアレルギー、障害がないかの情報がないのは困る」と潮谷施設長。以前、ゆりかごに預けられた赤ちゃんで、ある程度成長してから病気が分かったことがあったという。

 乳児院の定員に空きが少ないという問題もある。10月末時点で慈愛園が受け入れている乳児は定員15人に対し、14人。今後、内密出産の事例が増えれば、受け入れを断らざるを得ない状況が出てくる。「新生児が多くなるとその分、職員の手がかかる。現状でも受け入れる余裕はない」

 国が9月末に公表したガイドラインでは、内密出産で生まれた赤ちゃんについて、特別養子縁組の活用を求めている。赤ちゃんは乳児院での一時的保護などを経て、養子縁組を前提とした里親に託されるとみられるが、里親の数自体も多くはない。

 2021年度の県内の里親登録数は278世帯で、委託率は15・6%と全国平均22・8%(20年度末)を下回る。県内の乳児院で保護されている乳児は、県内の里親へ委託されるのが通例。里親支援に取り組むフォスタリング機関アグリ(中央区)を運営する熊本乳児院(同)の傘[からかさ]正治副院長は「選択肢を広げるためにも、(里親が必要な)子どもの2~3倍の登録里親がいてほしい」と訴える。

 フォスタリング機関は、養親の年齢や収入、育児のスキルなども考慮し、子どもにとってベストと思われる養親を里親として児相に推薦している。里親への育児指導に加え、子どもの障害や病気についての情報提供などの役目を担う。

 傘副院長は情報が少ない乳児を預かったり、里親に託したりした際に、「遺伝的な病気や胎児期の様子、産みの母親の思いやエピソードを教えてほしい」と児相などの関係者に要望してきたという。

 「『母親に大事にされた』『本当は自分と一緒に過ごしたかった』といった情報も含め、その子の生きる力につながると思う」と傘副院長。複雑な思いを抱えがならも、子どもたちに寄り添う状況が続いている。(「ゆりかご15年」取材班)

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