拳銃7丁、実弾156発 保管の組員「放免」 不起訴理由、地検「コメントできない」 地域社会に不安と不信 [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影②]
「マンションに拳銃のようなものがある」。2020年3月17日、情報を得た県警の捜査員が、熊本市中央区のマンションの一室に踏み込んだ。部屋には、拳銃7丁に実弾156発、日本刀、サバイバルナイフ、目出し帽…。水道や電気は契約しておらず、家具は一切なかった。「暴力団の武器庫」-。県警はその線で捜査を進めた。
部屋を借りていたのは、熊本市の暴力団組員で40代の無職男性だった。19年1月ごろ利用を始め、30代の妻が毎月、家賃を振り込んでいた。
当時は15年に分裂した山口組と神戸山口組の抗争が全国で激化し、銃撃事件も起きていた。こういった背景も踏まえ、マンションの拳銃について、県警は「上部団体から流れてきて、抗争に備えて保管していた」と見立てた。
捜査の過程で、拳銃は以前、この暴力団と関わりのある30代の男性と内縁関係にある女性宅にあったとみられることも分かった。「拳銃が3丁以上あれば組織で管理しているとみる」。捜査関係者は経験則から、拳銃と暴力団の関係をそう説明する。
県警はマンションの家宅捜索から10カ月後の21年1月、拳銃7丁と実弾156発を所持していたとして、銃刀法違反と火薬類取締法違反の疑いで、部屋の借り主ら4人と60代の暴力団組長、40代の組幹部の計6人を逮捕した。
逮捕直後は全員が容疑を否認したが、取り調べが進むにつれ、数人が関与をうかがわせる供述を始めた。部屋の借り主は、拳銃の入手経路は答えなかったものの「自分が持ち込んで保管した」と認めたという。
「少なくとも借り主の起訴は固い」。県警の確信とは裏腹に、送致を受けた熊本地検は20日間の勾留期限を迎えても処分を出さなかった。全員を処分保留のまま釈放して任意で捜査を続けた末、5カ月後に不起訴処分とした。
「あれだけの数の拳銃を一般人が所持できるわけがない。部屋の借り主以外の誰が所持していたというのか。拳銃を置いている部屋の家賃を払いながら、第三者に管理を任せるなんてありえない」。県警の捜査幹部は憤る。「起訴もせず、無罪放免はおかしい。地検は県民に説明できるのか」
不起訴の理由について、地検の広報担当者は当時の取材に「起訴できる十分な証拠が得られなかった」とだけ答えている。22年4月に着任した松永拓也次席検事に改めて理由を尋ねたが、「コメントできない」と回答は得られなかった。
押収された拳銃は地検に保管され、犯罪に使われる心配はなくなったが、事件の真相は明らかにされないままで、地域社会に不安と不信感がくすぶる。
「なぜ不起訴になったのか。このままでは同様の事件がまた起きてしまう」。地検の処分に疑問を抱き、不起訴となった6人を銃刀法違反などの容疑で刑事告発した市民もいる。
告発は不起訴となり、検察審査会に審査を申し立てた。(司法の現在地取材班)
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