検察官裁量で見送り7割 増える不起訴、埋もれる真相[くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影①-1]
警察、検察当局による犯罪の捜査で、検察官が容疑者を刑事裁判にかけず、不起訴処分にする事件が増えている。検察の統計によると、略式請求を含めた起訴の割合を示す「起訴率」は1989(平成元)年に全国で73・6%だったが、年々低下。2007年以降は30%台にとどまり、20年は33・2%だった。
約30年間の起訴率の推移を事件別にみると、「道交法違反」が90%台から50%台に、公選法違反や薬物事件など「特別法犯」は70%台から50%前後に減少。車の運転による過失致死傷などを除いた「刑法犯」でも、1989年の56・7%から2020年は37・5%に低下した。
不起訴処分の理由は、三つに大別される。捜査機関が容疑者の犯行と断定した上で、被害の程度や処罰感情などを考慮して検察官の裁量で起訴を見送る「起訴猶予」と、罪を犯した疑いはあるが裁判で立証する証拠が足りない「嫌疑不十分」、犯人でないことが明らかな「嫌疑なし」。不起訴のうち、起訴猶予が7割前後を占める。
熊本県弁護士会刑事弁護センターの松本卓也委員長は、犯行を裏付ける証拠がそろった事件で、起訴猶予が増える流れに着目する。検察が起訴せず、起訴猶予を選択する割合は89年の24・3%から上昇を続け、20年は63・9%に達した。
逮捕直後に弁護士が接見する「当番弁護士」制度が福岡県内で始まったのが90年。容疑者段階から請求に応じて国選弁護人が付く制度も06年に導入され、18年に容疑者が勾留された全事件に対象が広がった。松本委員長は「弁護人が捜査段階から動いて被害者との示談がまとまれば、起訴猶予の可能性は高まる。弁護活動の成果が数字に表れているのではないか」とみる。
熊本地検の松永拓也次席検事は「不起訴が増えた理由は分からない。私たちは純粋に『不正を正したい』との思いで職務に専念している。内部で起訴、不起訴の割合は気にしていない」と話す。
ただ、不起訴の理由について、地検の広報担当者は具体的な説明を避けるケースが大半だ。起訴猶予か嫌疑不十分か、あるいは容疑者の名誉回復が必要な嫌疑なしかを明らかにしない事件も少なくない。
専門家は危ぶむ。「公開の法廷で開かれる裁判と違い、不起訴は真相が埋もれてしまう。そんな事件が増えている」(司法の現在地取材班)
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