処分の理由、説明なく…検察による「事件」終結 [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影①-2]
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検察が不起訴処分とした事件の真相は、厚いベールに覆われている。熊本県内の事例をたどり、司法の「現在地」を見つめる。(司法の現在地取材班)
◇ ◇
投資詐欺の疑いで逮捕、送検された東京都内の自営業の男性(36)が今年3月、不起訴となった。熊本地検の広報担当者は、不起訴の理由を尋ねる取材に「回答を差し控える」とにべもなかった。
県警は、この男性と横浜市の会社員の男(51)が2020年12月、被害者の女性(39)が勤める県内の飲食店に客として来店し、女性にうその投資話を信じ込ませて現金1500万円をだまし取ったとして2人を逮捕した。約3週間の捜査を経て、地検は会社員の男のみを詐欺罪で起訴した。
2人の共謀を裁判で立証できる証拠が足りなかったのか。それとも、そもそも男性が犯行に関与していなかったのか-。地検からの説明はなかった。
日本国憲法は、国民監視の下で裁判の公正さを担保するため「裁判は公開の法廷で行う」とうたう。ただ、不起訴処分はその前段階で検察官が事件を終結させる手続きだ。
![処分の理由、説明なく…検察による「事件」終結 [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影①-2]](/sites/default/files/styles/crop_default/public/2022-06/IP220604MAC000006000_00.jpg?itok=BJPXqMH1)
地検は、不起訴の具体的な理由を伏せる法的な根拠として、刑事訴訟法47条の「訴訟に関する書類は公判の開廷前に公にしてはならない」との条文を挙げる。しかし、47条には「公益上の必要があれば、その限りではない」との例外規定がある。不起訴の内容をどこまで公開するかの運用は、検察官の裁量に広く委ねられている。
熊本大法学部の岡田行雄教授(刑事法)は「ひとえに証拠が不十分といっても、警察の逮捕やその後の捜査が適切だったのか、起訴猶予の判断は国民感覚に合致するか。それぞれ社会で検証可能な司法でなければならない。自分たちに不利な情報を言いたがらないのが検察だが、国民にもっと説明する責任がある」と指摘する。
海外ではどうか。米中西部ミズーリ州で2014年、白人警察官が18歳の黒人少年と言い争い、射殺した。米国の刑事司法は、くじで選ばれた市民で構成する大陪審が、容疑者を起訴するかどうか決める。この事件では大陪審が警察官の不起訴を決め、抗議行動が全米に広がった。これに対し、検察は大陪審の審理に提出した捜査資料を公開した。
専修大文学部の澤康臣教授(ジャーナリズム論)は「米国でも不起訴記録が閲覧できないことが多いが、説明を求められた際に市民と議論して納得してもらおうという姿勢が、日本の検察とは根本的に違っている」と話す。
「起訴するに足る証拠が得られなかった」「諸事情を考慮した」-。熊本市中央区で、裁判所の道向かいにある熊本地検。広報担当者による紋切り型の説明は今日も変わらない。
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