逮捕妥当か 検証できず 容疑の少年 家裁不送致に [くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影④]
昨年11月20日午前11時10分過ぎ、熊本市中央区のホテルから「火災通報装置が作動した。床が燃えた」と119番通報があった。現場の3階客室に消防と警察が出動。清掃作業員らの初期消火により、ベッドや壁の一部焼損で収まり、約20分後に鎮火した。
1カ月半後の今年1月5日。熊本東署は、現住建造物等放火未遂の疑いで、清掃作業員としてこのホテルに勤務していた熊本市の少年=当時(19)=を逮捕した。「3階客室のベッドに火を付けた」というのが逮捕容疑だった。
署によると、少年は清掃会社に雇われ、火災の数日前からホテルに勤務。現場に火の気はなく、ホテル内通路の防犯カメラ映像などから、少年の犯行と判断した。容疑を否認していたという。熊本地検は逮捕から19日後、少年を釈放。任意捜査に切り替えて3月末、熊本家裁に送致せずに事件を終わらせる「不送致処分」とした。
事件当日の防犯カメラには、少年が客室に出入りする姿が写っていたが、現場には別の清掃作業員も居合わせていた。署幹部は「不送致の詳しい理由は分からないが、検察官は少年以外の人間による犯行の可能性があると判断したのだろう」と振り返る。
家裁不送致について、地検の広報担当者は「十分な証拠がなかった」とだけ説明。松永拓也次席検事も「一般論として、容疑者の生活やプライバシーへの配慮が必要」と具体的な理由は答えなかった。
ホテルの40代の男性支配人は、署から不送致の連絡を受けたという。「事件をはっきりと解決してほしいという思いはあるが、捜査の結果なら仕方ない」と残念がった。
刑罰よりも更生に主眼を置いた少年法は、41、42条で警察、検察は犯罪の嫌疑がある少年について「家庭裁判所に送致しなければならない」と規定する。家裁の調査官らが、家庭環境や生い立ちなどを調べた上で「審判」を開き、少年院送致や保護観察といった本人の立ち直りに最適な保護処分を決めるためだ。
42条には、嫌疑が不十分などと検察官が判断すれば家裁送致の対象外とする規定もあるが、県弁護士会子どもの人権委員会の内川寛弁護士は「不送致は極めて珍しいケースだ」と話す。
不送致の理由を明らかにしない今回の地検の姿勢に対し、熊本大法学部の岡田行雄教授(少年法、刑事法)は「少年の犯行と疑う合理的な理由が本当にあったのか。検察の説明がなければ第三者は検証できず、誤認逮捕の可能性だって否定できない」と批判する。
少年事件では家裁送致後でも、審判を開かずに保護処分もしない「審判不開始」の手続きも用意されている。家裁送致後の調査で犯罪行為がなかったと認められたケースや軽微な事案、審判前に更生したと判断されたケースなどだ。
岡田教授は「今回、少年に一定の嫌疑があったというのなら、警察、検察以外の目でチェックする意味でも家裁送致にすべきだったのではないか。それが少年の健全育成を掲げる少年法の要請だ」と指摘する。(司法の現在取材班)
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