中学生の妊娠「娘守る」<ゆりかご15年>連載 第3部「匿名の先に 母子をどう支える」②
今から10年ほど前、県内に住む会社員マリコさん(仮名、40代)の娘は、中学3年生で子どもを産んだ。受験を控えた15歳だった。シングルマザーのマリコさんは娘を守ろうと、学校にも友人にも、他の家族にさえ、その事実を知らせなかった。
当時、思春期に入った子ども2人を女手一つで育てていた。仕事に追われる日々だったが、長女ナツキさん(仮名)の生理が遅れていることは気になっていた。「まさか、妊娠はしていないよね」。母子の間では何度かこんなやりとりが続いた。
10代の妊娠、とりわけ中学生や高校生の妊娠は、親もいち早く異変を察知するケースが少なくない。マリコさんもそんな一人だった。
もともと、ナツキさんの生理は28日周期でピタリと始まる。それでも、ナツキさん自身に、妊娠したという自覚はなかった。おなかも少し大きくなり始めていたが、保健の授業で習った、妊娠に伴う基礎体温の上昇も見られない。妊娠の可能性を打ち消し続けた。
マリコさん自身も「まさか」という思いが強く、具体的な行動に移すことをためらっていた。やがてナツキさんのおなかは目立つように。2人で女性医師がいるクリニックを受診した時には、既に人工妊娠中絶ができない時期に入っていた。
「どうにかなりませんか」。医師に聞いても、「紹介状を書きますから」とだけ言われた。産むしか選択肢は残されていなかった。マリコさんの動揺は大きかったが、娘に車の中で待つように伝え、何事もなかったかのように会計を済ませた。車に戻ると、ナツキさんは泣きじゃくり、マリコさんもこらえていた涙があふれた。「もっと早く受診していれば」。自分の対応の甘さを後悔した。
数日間、マリコさんはインターネットなどで相談窓口を必死で探した。「この子には未来がある。学校にも、娘の友だちにも、絶対に知られるわけにはいかない」。ナツキさんの当時の担任は若い男性で、腹を割って話せる気がしなかった。
匿名で相談できる行政の窓口で紹介されたのが、慈恵病院(熊本市西区)だった。すぐに電話をすると、「一度病院に来てほしい」と言われた。名前を聞かれることはなかった。聞かれたら不信感が募り、そのまま相談を続けていたかどうかは分からない。
翌日、マリコさんは一人で病院を訪ねた。娘が病院にいるところを、誰かに見られるかもしれないという恐怖心があったためだ。相談室では、当時の看護部長、田尻由貴子さん(73)と二人っきりで向き合った。
「娘はまだ中学生で自分で育てることはできません。生まれてくる子どもは自分の戸籍に入れて、私の実子として育てたい」。マリコさんは必死の形相で訴えた。娘を守ることはできるのか。頭の中は不安でいっぱいだった。(「ゆりかご」15年取材班)
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