(6)養親に息子託す 愛情今も
【いのちの場所 ゆりかご15年】第2部 たどりついて 母たちの思い⑥
ミユキさん(仮名)は出産前、生まれてくるわが子を特別養子縁組することを決めた。寄り添い続けてくれた慈恵病院(熊本市西区)のスタッフからの提案だった。
無事に赤ちゃんを出産すると、愛情が湧き、「自分で育てたい」という気持ちが芽生えた。しかし、養親はすでに決まっていた。一緒に過ごす時間がほとんどないまま、用意していたおもちゃと一緒に赤ちゃんを養親に託した。
「どんな子に育っているだろう」「どう過ごしているのかな」。しばらくは養子縁組をあっせんしてくれた団体を通して、小まめに聞くことができた。養親に託した息子に会うことはできないが、成長した今も愛情は変わらず持ち続けている。
「もっと早い段階で、頼れる人がいたら、妊娠の悩みを聞いてくれる人がいたら…と、今でも思うことがある」
ミユキさんは言葉を選ぶように明かした。
あの時、慈恵病院につながっていなかったら、自分で育てることになっていただろうと、ミユキさんは思っている。しかし、結局は誰にも頼れず、息子と2人、さらに追い詰められていき、無理心中を図る-。そんな最悪な結末もイメージできた。
ミユキさんは慈恵病院に入院中、自分がいま置かれている状況に向き合い、心を整理し、これからの人生を考えた。人間関係をリセットし、自分自身の生活も立て直そう-。これまで人に頼ることができなかったミユキさんにとって、信頼できる人間関係を築いていくことが人生のテーマになった。
今の夫とは30代後半で出会った。勇気を出して、過去の出産について打ち明けると、事実をありのまま受け入れてくれた。この人となら幸せになれるかもしれないと、結婚を決意し、やがて妊娠。夫がどう反応してくれるか不安もあったが、妊娠を喜んでくれたことで、新たな一歩を踏み出す気持ちになったという。
しかし、新しく宿った命は流産した。ショックもあったが、失った命と手放してしまった息子への愛情は消えることはない。そんなふうに思えるようになったのも、優しく受けとめてくれるパートナーがいたからだった。
仕事も変え、今は物流関係の職場で働く。職場では何でも話せる友人もできた。自分の気持ちに整理をつけようと、息子が10歳になった時には友人に過去の出来事を打ち明けた。年々、息子を信頼のおける人に託して良かったと感じられるようになった。
「子どもが生まれるって大きな変化なんです。誰しも不安があるけど、それをどう捉えられるかは置かれた状況で全然違う。私は最初から名前を出して相談したことで、何でも話せるようになった」
今、ミユキさんが思っているのは、困っている人に頼られる存在でありたいということだ。
「人生を立て直すきっかけはいつでもある。自分と同じように苦しむ人がいたら、『誰かに話しても大丈夫だよ』と伝えたい。生きていくには、パートナーや友人、同僚でも優しく受け止めてくれる人の存在が何よりも大事だから」(「ゆりかご15年」取材班)
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