(5)妊娠の現実、一人で背負う
【いのちの場所 ゆりかご15年】第2部 たどりついて 母たちの思い⑤
「きっと幸せに暮らしている。そう信じています」
関東に住むミユキさん(47)=仮名=は11年前、慈恵病院(熊本市西区)で男の子を出産し、特別養子縁組に託した。その息子はこの春、小学5年生になっている。
当時36歳だったミユキさんは、食料品店でフルタイムで働いていた。仕事が忙しく、悩みを抱えていたため、職場で相談できる相手を探していた。話を聞いてくれた同僚の男性に次第に心を許すようになり、交際が始まった。
やがて妊娠が発覚した。思いがけない妊娠だった。彼に告げると、「週数が合わない。おかしい」と疑いの言葉を投げてきた。自分の子であると認めようとしないどころか、態度が一変し、乱暴な言い方でミユキさんを精神的に追い詰めるようになった。彼の態度にショックを受けたミユキさんに、妊娠した現実が重くのしかかっていた。
「自分一人で責任を負わなければいけないのか」。追い詰められたミユキさんは、相談に乗ってくれるところを探した。どんな相談機関が良いのか分からなかったが、子どもを育てるための支援を受けることはできないか、市役所にも足を運んだ。しかし、職員の対応は冷たかった。事の経緯を説明しようとすると、全てを聞く前に話を遮られ、揚げ句の果てにこんな言葉を投げ付けられた。
「あなたにも落ち度がありますよね」
公的機関は頼れない-。そう実感したミユキさんは目の前が真っ暗になった。支えてくれるパートナーもおらず、介護が必要な父親がいる実家も頼ることはできない。しかし、自分のおなかはどんどん大きくなっていく。「誰とも話したくない」「誰も信用できない」。ミユキさんはうつ状態に陥っていった。
行き詰まっていた時に思い出したのが、慈恵病院の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」のことを書いた新聞記事だった。わらにもすがる思いで、病院の妊娠相談窓口に電話した。
「一緒にできることを考えていきましょうね」
自分の悩みに優しく耳を傾けてもらえたのは、初めてだった。辛[つら]かったことも全部吐き出させてくれた。ここなら頼れる。そう思ったミユキさんは名前を明かして相談を重ねた。看護師の助言で近くの病院で妊婦健診を受けると、すでに妊娠8カ月を過ぎていた。
やがて慈恵病院で出産するため、熊本に向かった。体調は優れなかったが、病院のスタッフは温かく親身に話を聞いてくれた。何より暴力的な彼から逃げることができたことで、安心感が生まれた。2週間の入院は自分を取り戻す時間にもなり、誰も信用できないと思っていた心がほぐれていった。
「一人でどうしていいのか分からなかったんです。病院スタッフからは、私と生まれてくる赤ちゃんに対して愛情を感じました」
ただ、安定した収入も頼れる人もいないミユキさんは、生まれた子どもを育てていく自信がなかった。(「ゆりかご15年」取材班)
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