自分の居場所探し続けて【「家族」を超える 親と子の視点で④】
2月中旬の日曜日。熊本市中央区にある「居場所」には、学生や社会人ら10人ほどがたわいもない話をしながら、鍋を囲んでいた。「ここに来ると誰かと話せて楽しいから」。輪の中心に、21歳のユウキさん(仮名)の姿があった。
「居場所」は、認定NPO法人「ブリッジフォースマイル」(本部・東京)が提供する児童養護施設や里親家庭出身の子どもらが集う場。名称は「かたるベースくまもと」というが、スタッフは「居場所」とも呼ぶ。現在、施設に通う小学生から退所した20代までが週末集まり、料理をし、スタッフと語らい過ごす。
ユウキさんが利用するようになったのは2年前の開設初日。「誰かと話すと自然と元気になれるタイプ。疲れている時でも、ここにただいるだけでいい」。これまで、自分の“居場所”を探し続けてきた。
中学まで、県南地域の実家で両親と祖母と暮らしていた。体格のいい父親はキレやすく、機嫌が悪いと怒鳴りつけ、暴力をふるった。食べ物がまずい、金がない-。父親のイライラの矛先はユウキさんに向けられた。祖母も母も、年の離れた姉たちも助けてくれなかった。「味方はいない。家は安心できる場所ではなかった」
「なんでこんな家族なんだろう」。学校から帰る時間はいつも暗い気持ちになった。テレビに映る家庭の風景や、学校の同級生が語る親やきょうだいとの違い。自分の育った環境が「異常なんだ」と気付いたものの、「普通」が分からず、周りの話に入ることができなかった。中学のほぼ3年間、自室に閉じこもった。
高校生になると、「事件」が起きた。両親の口論に巻き込まれ、突然父親に「おまえのせいで」と馬乗りで首を絞められた。そのまま抜け出し、近隣の家に助けを求めた。
警察に保護され、里親家庭に預けられた。実の親よりうんと年上の夫妻で、最初は気の良い人たちに見えたものの、時が経つとともに態度が一変。「においが嫌い」「顔も見たくない」。原因が分からないまま一方的に遠ざけられた。ある時から食事が部屋に運ばれるようになり、食卓を囲むことすらできなくなった。
理不尽に対する怒りと諦め。「でも身寄りがないから…」。ユウキさんには帰る場所がなかった。里親委託が半年で解除されると、今度はファミリーホームへと預けられた。
明るい夫妻が運営するホームには、ユウキさん以外に夫妻の実子のほか、養子縁組した子どもや里子など、さまざまな子どもたちがいた。にぎやかな暮らし。「ほかの子たちとも仲が良く、夫妻にも学校の話をしたりした」
驚くほど平和的な2年間。血のつながりがない中でも、「家」が安心できる場所になった。それでも、高校を卒業すると独り立ちしなければならない。社会的養護で育つ子どもたちが迎える宿命だ。(「ゆりかご15年」取材班)
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