ロアッソ、J1への夢は終わらない 成長実感できる〝アクションサッカー〟 来季も県民一丸の応援を!<WEBコラム・赤馬のキセキ>
「ロアッソ J1」-。得点と試合の経過以外は出来上がっていた号外を捨てられず、自宅のボードにピン留めしている。13日、京都に乗り込んだ参入プレーオフ決定戦。勝利が必要だった大一番は激闘の末に1-1で引き分けた。悲願のJ1にあと一歩。しかし、届かなかった。裏面まで用意した号外を多くの人に見てほしかった。選手とともに笑顔で喜びを分かち合いたかった。あー、悔しい。気持ちの整理をつけ、この原稿を書けるようになるまで、いつもより時間がかかってしまった。
サッカー専用スタジアムはピッチが目前で、全ての客席を覆うようにつけられた屋根に声援が反響した。2000人余りが駆けつけたロアッソサポーターのチャント(応援歌)とハリセンの音が響く。荘厳ささえ感じた最高の舞台で、ロアッソイレブンが激闘を繰り広げた。
ボールと人が動くサッカーをJ1京都にぶつけた。圧巻のプレーは前半31分、自陣ペナルティーエリア前でボールを奪うと、7人で12本のパスを回して京都のプレスをかいくぐり、攻め上がったDF黒木晃平のクロスにつなげた。38分にはDF菅田真啓が鋭い出足でボールを奪いカウンター。FW杉山直宏がミドルシュートを放ったが、相手GKの好セーブに阻まれた。
直後の39分、一瞬の隙を突かれて先制点を喫した。こちらのミスもあったが、京都のMF松田天馬(益城町出身)とFW豊川雄太(大津高出)の個人技にしてやられた。
昇格には2点が必要になった。しかし、ロアッソの選手たちは顔を上げ、パスをつなぎ、ゴールに迫った。後半23分、CKをDFイヨハ理ヘンリーが決めて同点。その後も攻勢をかけ、ロスタイムにはFW平川怜が惜しいシュートを連続して放ったが、歓喜の瞬間は訪れなかった。
「最後まで諦めなかった」。試合後、大木武監督は選手を褒めた。プレーオフ1、2回戦も劣勢の展開から得点を奪い、引き分けでしぶとく勝ち上がった。決定戦も同点止まり。規定で〝敗者〟となったが、J2代表として、堂々とした戦いぶりだった。
ただ、目標は達成できなかった。京都に、あの一瞬をきっちりと決められた。「球際をもっと強くならないといけないし、もっとサッカーを知らないといけない」。MF河原創主将は課題を直視した。組織力はJ1チームにも通じたが、個の力では及ばない場面もあった。大木監督は試合後、選手たちに「次の試合が大事だ」とメッセージを送った。選手一人一人が経験したことを生かし、成長につなげてくれるはずだ。
◇ ◇
来季の陣容が気にかかる。もう1年、同じメンバーでJ1を目指してほしいが、移り変わりの激しいプロの世界ではあり得ない。若い選手を育成し、移籍金を有効活用してクラブの好循環を目指すロアッソならなおさらだ。
主力選手が何人残るのか、不安はある。でも逆の期待感も大きい。新加入はどんな選手なのか。今季出番が少なかった大卒1年目の選手がどれだけ成長するのか。続投する大木監督がどんなチームをつくるのか。正直わくわくする。
大木監督は個性豊かな指揮官だ。一般的な「クロス」という言葉ではなく、仲間にボールを届けるという意味で「デリバー」という。「反対の手のカバーリング」「ブラッシング」。練習中は大木語録が飛び交う。
各ポジションに独自の番号を割り当て、「4番が前に出る代わりに、8番と7番が中に絞れ」といった指示が飛ぶ。「センターバック」「ウイングバック」「右ウイング」などの概念は大木ロアッソにはない。初めて練習に行った時は、とても戸惑ったのを覚えている。いずれも監督が独自に考えたもので、「固定概念にとらわれず、チームで設定した狙いや、役割を果たすため」のものだ。
戦術も多彩。駄目なところもはっきりと伝える指揮官は選手から厚く信頼されている。「熊本で必死に頑張れば成長できる」。主将の河原をはじめ、DF黒木晃平らベテラン勢、MF藤田一途ら大卒1年目の選手まで、大木監督の下でサッカーができる幸せを口にした。
夏にFC東京から加入したFW平川怜も、複数の候補の中から「ロアッソでサッカーがしたい」と決断した。他チームの選手にも、熊本の〝アクションサッカー〟は魅力的に映っている。
◇ ◇
J2で好成績だった地方クラブが、そのオフに主力選手をJ1などに引き抜かれ、低迷期に入るのは「Jリーグあるある」だ。「草刈り場」。このオフのロアッソのことを、そんな表現をするスポーツ新聞もあった。ただ、ロアッソのサッカーには軸がある。オフに一喜一憂するのはサポーターの宿命だが、来季がどんな結果であれ、チームと一緒に〝闘い〟、応援する姿勢に変わりはない。
今季、多くの喜びと感動を与え、夢を見させてくれた監督、スタッフ、選手に感謝したい。はるか遠くだと思っていたJ1が、手の届くところに感じられた。改めて県民一丸でJ1を目指そう。どんなに苦しくても最後まで諦めない、「誰もサボらない」ロアッソの夢は終わらない。(後藤幸樹)
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